「日米地位協定」から見える属国日本の姿

http://iwj.co.jp/wj/member/archives/15227 「日米地位協定」から見える属国日本の姿  日本国憲法よりも上位にあるとされる「日米地位協定」とは何か-3日、『日米地位協定入門』(創元社)が発売されたばかりの、沖縄国際大学大学院教授・前泊博盛氏に岩上安身がインタビューした。オスプレイの強行配備から普天間基地の辺野古への移設問題、さらには原発再稼働からTPP交渉参加まで、「日米地位協定」を切り口に、日米間に横たわるいくつもの政治的課題を幅広く議論した。 ―― 以下、全文文字起こし ―― 岩上安身「みなさん、こんばんは。ジャーナリストの岩上安身です。本日は、2月26日に発売になりました、こちらの『日米地位協定入門』(※)という本をめぐって、お話をお聞きしたいと思います。 (※)前泊博盛編著/明田川融、石山永一郎、矢部宏治著 『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』 2013年02月26日刊行 株式会社創元社 下記リンクより 著書の一部が読むことが可能です。(創元社 立ち読みよりhttp://www.sogensha.co.jp/pdf/preview_nichibeitiikyotei.pdf)  『日米値協定とはなんだろう?よく分からない。聞きなれない』という方もいらっしゃると思いますが、たいへん重要な条約です。著者の、前泊博盛さんをご紹介したいと思います。前泊さん、お久しぶりです」 前泊博盛「お久しぶりです。よろしくお願いします」 岩上「よろしくお願いします。琉球新報の論説委員長でいらした時に、沖縄の琉球新報本社にお邪魔をさせて頂きました」 前泊「そうでしたね。電撃訪問を受けました」 岩上「はい。その時に、お話をお伺いして以来ということになります」 前泊「そうですね」 岩上「今は、琉球新報をお辞めになられて、大学の先生になっていらっしゃるとお聞きしました」 前泊「はい。沖縄国際大学です。みなさんが覚えていらっしゃるとしたら、米軍ヘリが墜落をして大変問題になった、普天間基地の真横にある大学です」 岩上「大学院の経済学部の教授でいらっしゃるということなのですが。何を教えていらっしゃるのですか?」 前泊「沖縄経済を中心に教えています。基地経済論とか、軍事経済の研究をしています。それから、今、チームで友知(政樹)さんという先生と一緒に、沖縄の返還交渉の舞台裏の資料を再検証していまして、今度『ワシントンまでその調査に行こう』ということでその準備を進めています」 岩上「アメリカの発表資料というのは、日本よりも先に公開されることが多いんですよね」 前泊「そうなんです」 岩上「きちんと精査をして見ていくと、日本で公開されてない事実が明らかになってくるということが、これまでもありましたよね。そういうことを『しっかり調べてこよう』ということですか?」 前泊「はい。密約問題もそうなのですが……民主党政権は非常に批判も多いのですが、数少ない成果の中に、そういう外交文書を公開(※注)するということをしていました。しかも、それをインターネットでも公開をして(※注)、そしてCDにして外にも出してくれていたんですね。 (※注:関連情報)外交文書きょう公開 外務省「沖縄返還」など37冊 2010年7月7日 外務省は7日、1960年の日米安保条約改定と、72年の沖縄返還に関する外交文書ファイル計37冊の一般公開を開始する。作成後30年経過した公文書は原則公開するとした外務省の新制度の下での初の事例となる。 (琉球新報より) (※注)「インターネットでも公開をして」とは「日本外交文書デジタルアーカイブ」のことと思われる。 [日本外交文書デジタルアーカイブの概要] 日本外交文書デジタルアーカイブでは、インターネットを通じて、外務省編纂「日本外交文書」のデジタル画像および目次情報を提供しています。(外務省より)  この民主党政権の3年間の間に、実は沖縄の返還交渉について、ちょうど40年の節目を迎えたこともあり、随時、公開がされてきたんです。その中には『秘 無期限』とか『マル秘』、『極秘』の外交文書も開示されています。  そういう中で『なぜ、沖縄は返還されたのか』あるいは『施政権の日本への移管がなぜされたのか』。逆に言えば『なぜ、沖縄は返還されなければならなかったのか』という理由がありますよね」 岩上「はい」 前泊「つまり、米軍に預けられたわけですよね。日本から切り捨てられた。『なぜ、それがそう行なわれたのか』。その中に、天皇メッセージの問題もあります。どうも、天皇が『沖縄を米軍に預けた方が良い』という判断をしたのではないか。 あるいは『もしかしたら、天皇制の継続との引き換え条件に使われたのではないか』とか。色んな話があります。  そういうことと、今度は『なぜ、米軍に占領された沖縄が、日本に返還されることになったのか』それが『なぜ1972年なのか』、『70年でも、71年でも、73年でもなくて、72年というのはどうしてなのか』。しかも『どうして、5月15日という中途半端な日なのか』」 岩上「それにも理由があるんですね」 前泊「もちろん。それなりの理由がないといけないはずなのですが。そこら辺が、40年経ってもどうも曖昧になっているんです」 岩上「今、その答えはお持ちですか?」 前泊「色んな方から、今、証言を聞いているのですが。例えば、西山太吉さんは、みなさんご存じだと思います。『運命の人』(※注)に出てきた人です」 (※注)『運命の人』は、山崎豊子による小説。 『文藝春秋』にて2005年1月号から2009年2月号まで約5年間連載された後、2009年に単行本として全4巻で出版された。 「この作品は事実を取材し、小説的に構築したフィクションである」と冒頭に記載されている。実際にあった西山事件を想起させる内容である。 2012年1月15日より3月18日まで、TBS系列の『日曜劇場』枠で放送された。 (Wikipediaより) 岩上「はい。毎日新聞の元記者の方ですよね」 前泊「彼は、この400万ドルの密約を暴露したために記者生命を失いました。その出てきた400万ドルというのは、実は氷山の一角で、実は沖縄返還にあたっては、もっと大変な裏金が動いていたと。彼が言うには『実は一部にすぎない400万ドル』、『裏側では、もっと膨大なお金が日本からアメリカに渡されていた』と。  それが、実は5年後には切れるわけです。5年後に切れた時に始まるのが、実は『思いやり予算』なんです」 岩上「要するに『裏金から表に出てきた』ということですね」 前泊「表に出てくるきっかけも『実は沖縄返還交渉が、思いやり予算との関係で出てくる』と」 岩上「これこそ、戦後史の裏面史と言いますか、戦後史の正体そのものですよね。『戦後史の正体』と言えば、孫崎享さんです。  この本(『日米地位協定入門』)の装丁を見て『あれ?何かに似ているな』と思った方もいらっしゃると思います。孫崎さんがお書きになった『戦後史の正体』がベストセラーになりました。この本(『日米地位協定入門』)は、戦後再発見 双書というシリーズの『戦後史の正体』に続く、第二弾なんですね。  『戦後史の正体』は、昨年の固い本のベストセラー、ナンバー・ワンだと思います。それから、孫崎さんは、マン・オブ・ザ・イヤーだったのではないかと思います」 前泊「そうですね」 岩上「今年のマン・オブ・ザ・イヤーは前泊さんではないかと思っているのですが。今年は、この『日米地位協定入門』の年ではないかということで、お話を伺いたいと思っております」 前泊「ありがとうございます」 岩上「そして、今日お伺いしたいと思っているいくつかのポイントがあります。それを書き出してみました。最近、こういうフリップショーならぬ、スケッチブックショー(※注)をやっているのですが。 (※注)スケッチブックに書いてあるのは以下の13項目。 【日米地位協定入門】 日米地位協定とは? 日米安保・日米同盟との関係は? 日本は本当に独立国か? 米軍基地は沖縄だけの問題か? オスプレイとの関係は? 辺野古基地移転との関係は? 日本の負担は? 日本の防衛に役立つのか? 領土問題との関係は? 原発再稼働との関係は? 検察捜査報告書捏造問題とも関係がある? 世界中に広がる米軍基地ネットワークの特異性とは? 米軍再編との関係は?  日米地位協定入門。その中で『そもそも、日米地位協定とは?』とか。『日米安保とか、日米同盟は聞いたことあるが、日米地位協定との関係はどういうものなのか?』  それから『日本は、そもそも本当に独立国なの?』と。これは地位協定入門と関係があると思います。  それから『米軍基地は、果たして沖縄だけの問題なのか?』。こういう問題も、日米地位協定と関わってきます。『基地問題と関係があるとは思うが、基地問題といえば沖縄の話だろう』と、思っている人も多いと思います。  それから『オスプレイ』。オスプレイの問題は、みなさんご存じだと思います。低空飛行のことが気になっております。  それから『沖縄の辺野古基地の移転との関係はどうなの?』。これは強行をしようとしていますが『沖縄は全県をあげて反対』ということが言われております。  それから『そもそも、日本に米軍基地があるということ。そして、日本の負担は現実にどうものがあるのか』。冒頭で、一部、お話しをして頂いたように『思いやり予算』や、それ以外の様々な負担があります」 前泊「負担だけで、年間1,800億円もありますよね。」 岩上「年間1,800億という、とんでもない金額を我々は負担させられている。『どうして、外国の軍隊のためにそんなことしなければいけないんだ』という話になると、必ず出てくるのが『日本の防衛のために必要でしょう』、『日本は自国を自分で守れない。防衛に役立つのだから必要なんだ』と」 前泊「外務省はそう説明をしていますね」 岩上「そういう話になります」 前泊「でも『そんな訳がない』という話なんです」 岩上「そんな訳がない。更には『昨年から急浮上している、尖閣問題を含めた領土問題との関係は?』  それから、原発再稼働のことも、この本の冒頭に書かれています。それから、陸山会事件の、例えば検察の不祥事……『捜査報告書捏造問題などは、この地位協定が分からなければ分からないんだ』と。  『え?! これは外交安全保障の話で、検察や、原発は関係なんじゃない?』と思っている人もいると思います。でも、これが分からなければ分からない」 前泊「司法権は、もうアメリカに支配されています」 岩上「『え?!』という話ですよね。『そんなことも分からず、私たちは生きているのか』という話なのですが。  それから『世界中に広がる米軍基地ネットワーク』。こういうものが張り巡らされています」 前泊「4,999ヶ所の米軍基地」 岩上「4,999ヶ所。その内『日本における、米軍基地の特異性とはどういうものなのか?』。  あるいは、いわゆる『米軍再編』。米軍再編と言われていますが……こういうものを書きだしてみました。どこまで話せるのか分かりませんが、前泊さんにお聞きすれば教えて頂けると思います。 そもそも『日米地位協定』とはどういうものなのか?という質問なのですが。その前に1つだけ、これだけお見せしたいのですが。これはネットから引っ張り出してきたものなのです。(※注)  この『日米地位協定入門』の出だしに、私たち……特に首都圏に住んでいる人たちの頭上をこんなにも……これは千葉県です。これは伊豆半島です……関東から中部にかけて、こんなに広くて高い空域があるんです」 前泊「『横田ラプコン』ですね」 (※注)横田ラプコンの図を画面に表示。『日米地位協定入門』P.71 嘉手納・横田・岩国ラプコン 管制空域・解説まとめー(ブログ『ざまぁみやがれぃ』より) 岩上「これは『横田ラプコン』と言うものなのですが、これを米軍が支配をしている。そして、この空域から、米国の軍人や、あるいは情報機関の人間は税関を通らずに….」 前泊「もちろん。検疫もありません」 岩上「検疫もなしに自由に出入りが出来る。『これはどういうこと?』、『この国に主権はあるの?』ということになりますよね」 前泊「基地の中に自由に入れて、そして基地のフェンスの外にも自由に出入りができますから、事実上、入国管理がされていないということですね」 岩上「信じられないという人が、多いと思います。これを出だしに『一体、日本というのはどういう国なんだろう?』と。  そして、このあまり話題になることのない『日米地位協定とはどういうものなんだろう?』ということをお話して頂きたいと思います。早速ですが、日米地位協定とはどういうものなのでしょうか?」 前泊「結局、日本の主権をアメリカに支配されている。そのための条約というのがありますね。日米安保条約というのがあります。この安保条約が『なぜ結ばれたのか』というところを、実は日本人はあまり知らないんですね。『日米安保は大事だ』と言っている人たちも、どういう経過でこれが結ばれたのか。  実は、サンフランシスコ講和条約というのがあります。1952年に発行するわけですが、その講和条約を結ぶ時に、実はこの講和が成立すると、日本の占領政策は終わるわけです。終わるということは、占領軍は撤退しなければいけないんです」 岩上「これは、独立をするという時には普通に起こるプロセスですよね」 前泊「ところが、占領軍は撤退をしなかったんです。そして、今もいます。戦後70年、他国の軍隊が、この日本国内に駐留をしているんですね。この駐留している根拠が、占領がなくなったら終わるわけですから、それでも継続させるために結んだのが、実は日米安保条約なんです。  その安保条約を……実際に基地を置くために必要な取り決めが、日米地位協定なんです。逆に言えば、地位協定があって、基地を置くために、それをオーソライズ(許可)するために日米安保条約を結んで、そして講和条約を結んだということです」 岩上「これは、すごく重要なところだと思います。今、おっしゃっられたのは、日米地位協定の本質ですよね。昔は『行政協定』(※)と言われていました。これが本質にあって、それをオーソライズ……つまり正当化するために、お互いに守り合いますよと。 (※)行政協定:行政府の固有の権限に属する事項や既存の条約または国内法により容認された事項について,議会の承認を必要とせず行政府の間だけで締結される協定。1952年(昭和27)に日米間で締結された日米行政協定はこれにあたる。(Kotobanku.jp 大辞林 第三版の解説より)  とりわけ『アメリカが日本を守るためなんですよ』という粉飾……と言ったら言い過ぎかもしれませんが。そのような条約が取り結ばれた。それが日米安保であって、本質は日米地位協定だと」 前泊「基地を置くために、条約を結んだというふうに……置き続けるために、占領政策を継続するために、安保条約が結ばれたというふうに思って良いと思います」 岩上「要するに、地位協定というのは、一言で言うと、日本国内にアメリカ軍の基地を……」 前泊「置き続けるために」 岩上「そのための条約ということでしょうか」 前泊「日米安保条約は『条約』ですが、日米地位協定は『協定』なんです」 岩上「言われてみれば、確かに協定ですね」 前泊「『条約』と『協定』の違いというは『条約』というのは国会の審議を通らなければいけないものなのですが『協定』はそういう義務がないんです」 岩上「国会の批准が要らない」 前泊「そうすると、ここで全てを勝手に決めることができる」 岩上「政府間で決めてしまう」 前泊「はい」 岩上「官僚さえ『はい』と言えば……要するに、国民が納得しなくても……」 前泊「国民の知らないところで結ばれている。ですから、国民が知らないのは当たり前なのですが。知らないところで決められたものが、実は国民の権利をかなり侵害しています。  それから『日本の法律を無視しても良い』という治外法権を認めて、不平等条約というのが成り立っているというのが、この地位協定の問題点ですね」 岩上「そこが本質ですね。『協定』というところに本質がある。これは、国会の権威とか、立法権とか、あるいは、国権の最高機関であるということや、国民の代表であるということを、言い換えれば、民主主義と、その本質」 前泊「基本ですね」 岩上「そこを空洞化させてしまっている協定なんだ、ということですね」 前泊「そこを通らないで決められてしまっているけれども、それが実は憲法よりも上にある」 岩上「憲法より上位にある?」 前泊「上にある。つまり、憲法が無視されているんですね」 岩上「国民主権というものが、無視をされているわけですよね」 前泊「地位協定によって、それが無視されているんです。  例えば『日本の法律に従わなくても良い』という取り決めが、この中でされているんです。ちょうど、この本の(『日米地位協定入門』)の表紙に、オスプレイの写真が入れてありますが『低空飛行訓練が日本国内でできる、これはなぜなのか?』。  日本の国内法が適用されると、それができないんです。日本の航空法では、そういう低空飛行訓練が、国内では出来ないことになっているのに、地位協定上は許されている。  これはあり得ないことなのですが、されるんです。明日から、多分、九州でオスプレイの訓練が始まりますが。日本中で、この訓練がされていくんです。この本の中に地図を入れましたが、そういうことは、実はアメリカでも出来ないことなんです」 岩上「これは、各論ではありますが最新のテーマです。これはパイロット版ですが、この本の117ページの図(※注)が、こういう図になっています。その次のページにも、また別の図があります。これをこの図で説明すると。この7つのルートがあるとされています。 (※注)オスプレイの低空飛行訓練のルート(毎日新聞 クローズアップ 2012:オスプレイ訓練 自治体、不信の目 2012年11月25日より)  この7つのルートは、昨年のオスプレイ配備問題の時に、既存メディアですら大きく報じました。『日本中を低空飛行するのか』と。  しかし、これには欠損というか、足りないところがあります。このルートだけを飛ぶように、この図からは感じます。しかし、実際にはそうではなく『どこから飛んでくるのか』ということが抜けているんですよね」 前泊「そうですね。米軍機がいきなりワープをして、そこにたどり着くわけではないんですね。駐留をしている沖縄から飛んできて、そこに行くわけです。  あるいは『岩国から飛ぶ』ということになっても、飛んでいくためには、どこを飛んでも良いわけです。  そうすると『日本中どこでも飛べる』ということになるんです。そういうことが『なぜ、示されないのか』ということを、この本の中で少し触れました。  これは、実はメディアが『米軍が発表したからそれだけしかない』と思っているのです。本州の方しか書いてありませんが、実は北海道にも北方ルートがあるんです。  『なぜ、それをやらないのか』ということですね。北海道のメディアから取材を受けて『北海道でも反対の議決がされたけれども、なんの意味があるんですか?』という問い合わせがありました。『北方ルートがありますよ』と答えたら『え?!』と言われたのですが、知らないんですよね。  このブラウンルートについては、今のところ未確認ということになっていますが、実際には、もう島根県や、鳥取県で、低空飛行訓練の被害が続出しています」 岩上「もうすでに」 前泊「ガラスが割れるとか、あるいは、家畜が大暴れをして骨折をするとか、そういう被害が出ています。これは、島根や、鳥取の新聞では報道がされるのですが、全国紙には載りませんから、なかったことにされてしまっているんですよね」 岩上「一応、IWJは、地域を超えて全国どこからでも見ることが出来ます」 前泊「是非、これは知って頂きたいと思います」 岩上「当たり前ですが、北方領土のところには、特に点線がありません。しかし、当然、こっち側から飛んでいくわけですから、(沖縄から日本海、太平洋を回って北海道のルートを指す)早い話、日本中どこでも飛べるということですよね」 前泊「はい。実際に、F15の飛行訓練というのは、このライン以外で展開をされています」 岩上「つまり、オスプレイだけではなく、それ以外の米軍機も、このような日本の航空法を逸脱した訓練を続けていると」 前泊「今もずっとやっています。ですから、なぜオスプレイだけが注目されるのかよく分からないんです。F15もやっています。アメリカの駐留米軍の戦闘機は、全部、ここを使って訓練をしています」 岩上「ずっと我々が知らなかっただけで、頭の上を通り過ぎているわけですね」 前泊「ずっと通っています。飛んでいます。そういうことを、オスプレイ配備で、初めて気がつく方も多いと思います。しかし、実際には、F15や、あるいは、ホーネットとか、F18とか、そういう戦闘機が日常的に訓練をしている場所だ、と見て良いと思います」 岩上「こうしたことは、アメリカでは許されないわけですよね」 前泊「アメリカのニューメキシコ州では、オスプレイの配備の問題で『こんな、危ないものは飛ぶな』という反対運動を受けて、飛行停止になった例があります。  それから、ハワイでは『カメハメハ大王の遺跡が影響を受けるから飛ばないで』、『環境に影響を与えそうだから止めて』ということで止められました」 岩上「アメリカでは、民主的なコントロールの下で、そこにいる住民たちの声が受入れられている」 前泊「アメリカ国民の声ですからね」 岩上「聞き入れられているわけですよね」 前泊「アメリカの政治家は、聞かないと大変なことになりますから」 岩上「なるほど。そういう意味では、日本は51番目の州ではないと」 前泊「むしろ、51番目の州なら大統領の選挙権がありますよね」 岩上「ありますよね」 前泊「でも、ありませんよね」 岩上「ありませんよね」 前泊「政治的な影響力がないんです。だから安心して飛べますよね。しかも、日本中をこれだけ自由に飛ばせるということについて、不思議に思いませんか? なぜ、飛ばなければいけないのか」 岩上「思います。どうして、日本の中で、こんなにも縦横無尽に訓練を行なわなければいけないのか。どこへ向かって、このオスプレイは行こうとしているのか」 前泊「F15もそうですが、これだけ訓練をしなければならない理由が何か分からなかったんです。昨日、岩上さんから電話があって考えたのは『これはもしかしたら、日本を占領してることをアピールしているんじゃないか?』ということです」 岩上「なるほど」 前泊「あるいは、日本で、いつでも自由に飛び交っているわけですよね。この国をいつでも攻撃できる体制……九州まで飛ぶ理由には、なにがあるんですか?一部特定の地域で飛べば、訓練は済むはずなのに、日本中を網羅して飛び回る理由はなんだろうと」 岩上「そうですね。占領というのは、ある時点で、占領をしてそれで終わるのではなく、常に『俺達の方が上位にあるぞ』ということを、思い知らせ続けなければ、独立の機運が高まってくるかもしれない。だから『俺たちは全国を飛び回り続けることが可能なんだぞ』というアピールの側面が、もしかしたらあるのではないか、ということですよね」 前泊「逆に、日米安保が、もし双務性を持つとしたら『日本の自衛隊が、ニューヨークや、ワシントンの上空をこういうふうに訓練することができるのか?』ということです。逆ができないのはおかしいと思いますよね」 岩上「思います。アメリカを守りに行かなければいけませんから」 前泊「『そういう訓練しましょう』と。『我々も、アメリカ本国でなにかあった時に助けられるように、アメリカ本国で訓練をしましょう』ということになった時に、アメリカは許すかどうかですよね。  日米安保は、まさに、日本とアメリカのパートナーシップですから『アメリカが、万が一の時は自衛隊が守ってあげましょう』と。  例えば『ニューヨークのど真ん中のセントラルパークに、自衛隊の一部を駐留させましょう』と。だから『そこを飛行場にして頂いて』というのが、まさに普天間基地と同じ状態ですよね。  『自衛隊が、そういう形で駐留できるのか』ということを、アメリカ側に問いただした時に『なにバカなこと言っているんだ』と、多分、言われるんですよ。  あるいは『カリフォルニアの上空を、自衛隊機が飛び回ることを考えてみてご覧なさい』と。それが、なぜ日本だけ許されるのかというのが、不思議ですよね」 岩上「これは対等な関係ではないということなんですよね」 前泊「そうですね。実は『日米合同訓練』というのがあって『共同訓練』という言葉と微妙に違いますよね。  『合同訓練』という言葉を、実は自衛隊はものすごく嫌っていて、新聞社にいた時に『合同訓練』に対して抗議が来たんです。『合同訓練というと、指揮命令系統がアメリカになるようで、どうも縦系列になるのが嫌だ』と。『共同訓練と書け』というふうに、自衛隊から抗議を受けたんです。  『共同』と『合同』の違いは何か。アメリカでは、英語で『Joint』と書くので、一緒なのですが、そこまで自衛隊が、逆に言えば、こだわる理由が何かあるんです。やはり、上下関係があるんです」 岩上「実際には、指揮権をアメリカが握っているということなんですね」 前泊「もちろん」 岩上「『もちろん』とあっさり言われますが」 前泊「情報もそうですね」 岩上「情報も」 前泊「北朝鮮がミサイルを撃った時に、日本がバッジシステム(※注)を敷いて、ミサイルの防衛のレーダーを置いているのに、その情報は、まず最初にワシントンに行くんです。ペンタゴンに行って、それから打ち返して日本に入ってくるんです」 (※注)BADGE【バッジ】:base air defence ground environmentの略。米空軍が海外基地用にGE社に開発させた防空警戒管制組織GPA-73の名であったが,日本では航空自衛隊が既存の全国レーダーサイト網に自動化器材を追加,改装した自動警戒管制組織をさし,1969年から本格的な運用が開始された。(kotobanku.jp 百科事典マイペディアの解説より) 岩上「時には教えてもらえないこともあるのでしょうか」 前泊「教えてもらえていないことが、たくさんあったりする」 岩上「教えてもらえていないことの方が多いのですか」 前泊「それを、お願いをしてようやく引き出す」 岩上「自分のところにあるのに」 前泊「田中真紀子さんが、アメリカの承諾なしに、それを言ったので非常に叱られたという話がありましたね」 岩上「その事実を言うだけでも、アメリカの承諾が必要なんですね」 前泊「そうですね」 岩上「やはり、おしゃべりというのは世の中に必要ですよね。絶対に必要ですよ。(笑)田中真紀子の社会的効用という」 前泊「それは、隠す話ではないですよね。関係性があるのであれば『日本とアメリカが、こういう関係にあります』ということを言ってくれた方が、国民も納得しますよね」 岩上「納得できるかどうかは、別の問題ですが」 前泊「事実ですから」 岩上「事実上、そういう状態に置かれているということですよね。早い話、私たちは目を塞がれ、耳も塞がれているのに、目を塞がれ、耳をふさがれていることを知らない状態ということは、ものすごくおかしな話ですよね。  私たちは、様々な制約を受けてしまっている。情報上の制約、それから主権も制約されてしまっている。主権は制約どころじゃないのかもしれません。また、色々話が広がっていきますが。  一旦、話を戻らせて頂きます。『日米地位協定とはなにか』というところから、話が始まりましたが、日米地位協定が結ばれたその経緯……先程『1952年のサンフランシスコ講和条約とともに結ばれた』と。  そして、安保と言えば、60年安保がありました。その後、70年安保はありましたが、関心が遠のいていったというのが現状だと思います。最初に結ばれる時に、どういう経緯があったのか」 前泊「はい。この本の中でも書きましたが、実は講和条約を結んで、その数時間後にサインを求められたのが日米安保条約です。これは、英文で渡されました。そして、中身をよく知らない、慌てて一緒に行った外務省の職員が翻訳をしました。  これは、アメリカの高官が言っているのですが『これにサインをするということは』いわゆる、不平等性をアメリカは認識をしているわけですよね。  だから、アメリカの高官から『この条約の中身を国民に知れたら、サインをした人が後で殺されるかもしれない』ということを言われているんですね。ということは、アメリカ側は、当然、この条約を結ぶことの大変さを分かっていた」 岩上「『これは売国的な条約で国を売り渡すようなことなんだ』と。『その国を植民地にするようなものなんだ』と。少なくとも、部分的にはそういう内容であることを、アメリカは十分に認識していて、サインをする役目の人間に『お前は死ぬかもよ』ということまで耳打ちしていたということなんですね」 前泊「そのことが、この本の中に書いてありますので、是非、読んで下さい」 岩上「サインしたのは、誰か」 前泊「誰かというのは、是非(笑)」 岩上「(笑)それは読んで下さいということで」 前泊「これは、読んで頂かないと(笑)」 岩上「NHKのドラマにも関係ありますよね」 前泊「(笑)そうですね。そういうことがあります。そして、結んだ中身について良く知らないままに」 岩上「あの人は、本当に何も知らないままにサインをしたのでしょうか?」 前泊「そうです」 岩上「よく分かっていたのではないでしょうか?」 前泊「分かっていても……」 岩上「抵抗ができなかったということですか?」 前泊「そうです。『これをしないなら、講和条約をなしにしてもいいんだよ』と言われたら、それは講和ありきですから」 岩上「『講和条約をなしにして良いよ』ということは『独立できないよ』と。『このまま占領だよ』と」 前泊「そうですね。『占領政策は続くけど、どうする?』と言われたら、それはやらざるをえないですよね」 岩上「『形の上だけでも、占領は解いてもらいたい』と」 前泊「それをやらざるを得なくなる。そしてサインをする。その中身がね」 岩上「これが、戦後保守の出発点なんですよね。保守本流と言われた人たちが、ここからスタートするわけです。『戦後保守とは何か』というテーマにも繋がるのだと思います」 前泊「そうですね」 岩上「ですから、基本的には『アメリカに従属する』ということを承諾してしまった政治勢力ということが、私は戦後保守の定義なのだろうと思います。戦後保守本流と言われる人たちは、サインをしてしまった葉巻の好きなおじさんたちも、政治勢力のそこをスタートとする。これは、大変、歴史に残る人物ですよ。  でも、その人たちはアメリカに従属してしまうことを承知でサインをする。しかし、同時に『なるべくそのこと、事実を国民に知らせないでおこう』と考えるようになったということですよね」 前泊「本当に、自分の政治生命にも関わる部分ですから。それから、子々孫々まで語られることですから、やはり、そのことをしっかり見つめなおさないと、日本の戦後というのは終わらない気がしますね」 岩上「この二重性ということが終わらない。官僚や、ごく一部の人たちは知っている。しかし、国民には隠す。そして、その隠していくための役割を、一生懸命、マスメディアは果たし続けていく。ずっと催眠を国民にかけ続ける。一種の催眠商法みたいなものにあって書いてしまったようなものですよね。後は催眠を続けなければならない」 前泊「そうなんですよ。『米軍がいることで、日本を守ってくれている』というふうに思わされてしまう部分がありますよね」 岩上「なるほど。催眠が溶けてくるといけないので、もう一回催眠をかけようという話になってくるんですね。そうすると、先程の書いてきたこういうような話になってくると思うんですね」 (画面に先程のスケッチブックが映し出され、次の2項を指摘する。 8)日本の防衛に役立つのか? 9)領土問題との関係は?) 前泊「そうですね。『抑止力』とよく言われますね。『在日米軍がいることによって、戦争への抑止力があるんだ』と。この『抑止力』というのを、みなさんの周辺の方に、是非『見た』という方がいたら、岩上さんに連絡してほしいのですが」 岩上「(笑)『抑止力を見たことがありますか?』『どんな色、形、顔をしていました?』ということですよね」 前泊「例えば、沖縄にいると『抑止力』というのが、沖縄の方言で『ユクシ』と言うのですが。これは『嘘』という意味です」 岩上「沖縄で『ユクシ』というのは『嘘』という意味」 前泊「『ユクシ力』とよく言われます。つまり『嘘の力』ということになるのですが。例えば、尖閣問題があります。これだけ大騒ぎをしていますが、在日米軍、在沖米軍(沖縄にいる米軍)もピクリとも動いていませんよね。米軍再編が進捗していませんから。  普天間基地も返還されていませんし、駐留米軍も減っていないにも関わらず、なぜ尖閣問題がこれだけ激しく動いているのか。中国が出没しているのはどうしてなのか。これは、抑止力が効いてないという証拠になりませんか?」 岩上「辺野古への基地の移設との関係も書いていらっしゃいますが。アメリカの要望どおりに、新しい基地を建設しなければいけない。辺野古に移らなければいけない。『そうしないと、抑止力が効かないんだ』と。  これにも、色々と裏があって……そもそも本当にそこにいる海兵隊というのは役に立つのか。なんのためにいるのかという、そこのところが、いつもはぐらかされているんですよね。はっきり言えば『抑止力』というのは、そのために出てきた言葉です。  辺野古の論議が、鳩山政権の時に大騒ぎになりました。例えば、私は、その時はまだ『とくダネ!』というテレビ番組をクビになっていませんでした。(笑)そして、森本前防衛大臣と……その時は、評論家でいらっしゃいましたが……一緒になり、そして『これはなんの役にも立たない』という話を、私がしようとすると、ものすごい勢いで突っ込んできて『そうじゃなくて、抑止力のためにいるんだ』と。  例えば『このオスプレイというものは、尖閣の防衛とか、奪還にはなんの役にも立たないですね』、『ただの輸送機ですから、そこに兵員が降るわけもない。意味が無い』という話をすると『海兵隊はそこにいるだけで抑止力なんだ』という話をしたりする。  こういう場面というのは、私の出ていたテレビだけではなく、あらゆるメディアを通じて、繰り返された一種のキャンペーンだと思うんです。  でも、実際には、沖縄の米軍、とりわけ海兵隊というのは、目の前にある尖閣をめぐる……もし、日中間の紛争というのが起きた時に『直接、役に立つのか?』というと、役に立ちそうにもないんですよね」 前泊「そうなんです。オスプレイの話が、まるで『これがないと抑止力が効かない』というような言い方をされたりするのですが、オスプレイは輸送機なんです。攻撃兵器ではないんですよね」 岩上「ミサイルもない」 前泊「ミサイルもない。なぜ、これが抑止力になるのかよく分からないんです。国民で、本当に知っている人はいるのかなと。誰も、この輸送機が抑止力とは思わないと思うんです」 岩上「思わないですよね」 前泊「アメリカが、どうしてこのオスプレイが必要かというと、有事の際に、自国民をまず脱出させるための輸送機なんですよ」 岩上「なるほど。そのために必要なんですね」 前泊「そのためにあるんです。だから、沖縄に置いといてもなんの意味もないのですが。それが、なぜか抑止力と言われる。だから『ユクシ力』と言われているんです。  例えば、普天間の移設の問題がありますが、これも、この地図、実は1966年にアメリカ海軍が作っていた計画ですが、これが辺野古ですね。『基地を作ろう』ということで、実は66年に構想として出ていたんです」 岩上「66年に構想として出ていた」 前泊「はい。これが、その時の米軍の資料ですが、マリーンが作った資料です。これが辺野古ですね。この基地を作ろうとした時は、66年のベトナム戦争の最中で『お金がない』と。会計検査で『これは高すぎる。止めろ』と怒られて、できなかったんです。  それから、もう一つは『朝鮮戦争があって、ベトナム戦争があって、基地建設が一段落していたのに、また新しい基地を作るということは、新しい戦争をアメリカが仕掛ける』と。  例えば、中台紛争だったり……『そういうことを仕掛ける』という誤ったメッセージを送りかねないので『これは駄目だ』というので、アメリカの議会も含めて、ノーと駄目出しをされた基地なんです。『お金も掛かりすぎる』と。  ところが、今回、みなさんもご存知のように、この普天間基地を移設するということにしたんです」 岩上「そうですよね。『市街地の真ん中にあるのは危険じゃないか』と言ったのは、ラムズフェルドさんでしたよね」 前泊「『どうして、こんなところに基地があるんだ』と」 岩上「『世界一危険だ』と。突然、そういう人間的なことを、ラムズフェルドさんが言い出したので、みんな喜んだと思うのですが。しかし、他方で『おかしいな。そんなに人間味のある人なのかな?』と思っていたら『ちょっと待てよ』と」 前泊「違うんです」 岩上「実は『順番が違う』と。辺野古を作りたかったから、それを言い訳にしたということなんですよね」 前泊「そうですね。つまり『この夢の辺野古新基地を、普天間と引き換えに置こう』という話なんです。  この基地というのは、実はこれは、このマークを見れば分かりますが……小さくささやかに書かれていますが、ベクテル社(※)というアメリカの軍事産業が作った絵です。これが97年に作られた図です」 (※)ベクテル (Bechtel Corporation ; Bechtel Group)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコに本拠を置き、総合建設業を営む多国籍企業。石油コンビナート、発電所、ダム、空港、港湾などの建設を請け負う世界最大級の建設会社。(Wikipediaより) 岩上「97年に……ベクテルは世界一のゼネコンですよね。そして、同族会社でもあり、その中身が全然、分かっていません」 前泊「今でも書いています。これが、つまり完成形です。写真が出回った頃ですが……実は、これはもう一枚あって、これです。どこに違いがあるのかというと、これに港がついているんです。港がついて、補給基地があってという。この絵が、実は辺野古新基地の最終構想案になるというふうに、97年から私は言っているのですが。  この基地と違う……これは当時の設計図ですが、なぜそれが必要かというと、2005年になって、米軍再編を改めてやった時に明らかになるのは『普天間の移設を認めてくれるなら、嘉手納から南の基地を返してあげるよ』というふうに、交換条件をさらに高めてきたんです。余り動かないものですから。  嘉手納から南の基地というと、那覇軍港、それからキャンプ・キンザー(牧港補給地区)、それからキャンプ瑞慶覧、キャンプ桑江、陸軍駐留施設、そして普天間基地です」 岩上「そんなにあるんですね」 前泊「それが、全てこの中に入っているんです。那覇軍港、キャンプ・キンザーという牧港補給基地、普天間基地、住宅エリア、整備エリア、そしてキャンプ瑞慶覧の全てが、この中にフルセットで入っているんです」 岩上「なるほど」 前泊「港まで作ると……この山の中に何があるかというと、辺野古弾薬庫です。かつて、核ミサイルを置いていた場所です」 岩上「ここに置いていたんですか?」 前泊「見えないのですが、あの山の中に巨大な弾薬庫があるんです。そういうものが、実はあって『ここに全てが揃えられるので、嘉手納から南は返しても良い』という話なんです。  しかも、市街地にあるから、反対運動が激しくなる。『見えないところへ隠してしまえ』と。しかも、港まで付けば、自由に今度は何を運んできても見えませんから」 岩上「なるほど」 前泊「自由に使えるフルセット型の基地」 岩上「『別の港から上陸させて、陸揚げさせて、陸路を通ったりすると人目についてしまうから、ここをワンセットで、しかも、かなり市街地からも離れている』と。そうすれば、日本の関係者も、それから沖縄県民の反対運動も下火になるだろうと。  つまりこれは『沖縄における基地の恒久化、永久化のために、面倒なことを避けられるように集めておこうよ』という構想ですよね」 前泊「フルセット型の最新鋭の基地が、しかも日本の予算で作られるんです。これだけのものが、無料で手に入るのであれば、私がアメリカ側だったら喜んで、交換条件で『普天間なんか返してやるよ』と言いますよ。そうすれば、フルセットの基地が手に入るんです。こんな良い話はないですよね」 岩上「『旧型モデルから、新型モデルに交換してくれる。しかも、無料で』という話ですよね」 前泊「普天間の移設先として、日本が作ってくれるんです」 岩上「移設先として」 前泊「ところが、普天間については『本当に作ったら返すのか?』ということになったら、アメリカの司令官が『返すわけがないじゃないですか』と。『暫定使用ということで、あれも使い続けますよ』という話をしているんです」 岩上「そう言ったんですか?!」 前泊「言っているんです」 岩上「言っているんですか?」 前泊「ですから『本当に返すかどうかって、やってみなければ分からない』と」 岩上「『やってみなければ分からない』。『 これが出来るまで使い続けます』。これができた時には返すからと言って、実は、ずっと手元に置き使い続ける可能性があるということですね」 前泊「ありますね。例えば、那覇軍港は、1972年の沖縄返還の時に『返還します』と決めたんです。決めたのに『当面の間』という暫定使用で40年が過ぎてしまいました。暫定使用で40年です。まだ使い続けています。  事実上、使ってないのに返してくれないんです。地位協定上は『使われなくなったら返す』というふうに書いてあるのに、使ってなくても返さないのは、地代は日本が払っていますから、痛くも痒くもないんですね」 岩上「これは、尖閣にも言えますよね。尖閣列島は五つの島でなっているのですが」 前泊「その内の二つは」 岩上「今回の問題は、石原さんがそもそも言い出したことで、昨年の9月にヒートアップしました。そもそも、4月16日にヘリテージ財団の講演で発言したんです」 前泊「『なぜ、アメリカで言ったのか』ということですよね」 岩上「そうですよね。そして、石原さんは尖閣諸島の五つの島の内、なぜか三つの島のことしか言わないんですよね。そして、残りのニつは、なんと米軍の射爆撃場になっているんです」 前泊「演習場ですよね。しかも、日本が地主さんにその地代を払っています」 岩上「石原さんは、そのことを言わないんですよね」 前泊「そうなんです」 岩上「どういうことなのでしょうか?」 前泊「みなさんは、大好きな石原慎太郎さんのことなで、誰も文句を言わないのですが、彼の発言の後で、実は反日デモまで起こってしまっています。そのために、ざっと計算をして、今、5兆円ぐらいの貿易量が減っています。大変な損失ですよね」 岩上「これは、石原不況ですよね」 前泊「どうして、言った人が責任を取らないんだろうと思いませんか?」 岩上「そうですよね。最近『まずい』と思ったのか、入院をされましたけれども」 前泊「そうなんですか?」 岩上「入院されたのをご存知なかったのですか?」 前泊「いえ、知りませんでした」 岩上「『ちょっと体調悪い』と言って入院されたそうです」 前泊「でも、本当に政治家というのは、自分の発言に責任を持たなければいけませんよね。『5兆円の損害賠償を請求したらどうか?』と、冗談でよく言ったりするのですが」 岩上「冗談ではなく、請求した方が良いと思います。自動車関係は全て5割減ですから。いずれにしても、こういう、基地を好きなだけ好きなように持つ。     それから、今、尖閣諸島を一つの例に挙げましたが、それ以外にも、今おっしゃったように『一旦、手に入れたものは返さない』、『使っていなくても返さない』、『地代は日本が払い続けなさい』、『建設費は日本が払い続けなさい』という、無茶苦茶な話の根拠が日米地位協定になっているんですね。  この本の冒頭(p.20)に、この日米安保条約を結んだ時の、交渉担当者だったジョン・フォスター・ダレス(※)……当時の国務省の顧問だったそうですが……ダレスの有名なセリフがあります。日本の独立、占領の終結に際して、アメリカ側が最大の目的としたのは『われわれが望む数の兵力を、[日本国内の]望む場所に望む期間だけ駐留させる権利を確保すること』だったと」 (※)ダレス (Dulles, John Foster ):1888-1959 アメリカの政治家。 1888年2月25日生まれ。1950年国務長官顧問となり,昭和26年サンフランシスコ講和条約交渉のため,トルーマン大統領の特使として来日した。1953年アイゼンハワー大統領のとき国務長官に就任。1959年5月24日死去。71歳。ワシントン出身。プリンストン大卒。(Kotobanku.jp デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説より)  前泊「そうです。それは、変わらずに実現しています」 岩上「これが実現してしまっている。日米協定の中に、どのような形で書き込まれているのでしょうか?」 前泊「これは『全土基地方式』という形があるのです。つまり、これは自由使用を認めているんです。日米地位協定上、置かれた基地においては、自由使用も認められているし、低空飛行も認められているし、それから基地間移動という形で『どこにでも移動して良い』ということになっています。  それから『入国管理についても免除される』ということが、この中で書いてあります。それから、入ってきた人が自由に出入り……『基地から出て行こうが、入っていこうが、それも自由に許される』と。  それから『犯罪を犯しても公務中ということになれば、裁判権をアメリカ側が持つ』ということも決められています」 岩上「これは、いつも問題になりますよね。大体、この日米地位協定という言葉を、我々がメディアを通じて聞く時は、米兵が犯罪を犯し、悪さをした時に、なぜか日本の官憲が逮捕をしても裁判にかけることができずに、アメリカ側に引き渡され、そして非常に軽い罪で終わる。もしくは、軽い処罰で終わってしまうなどということがあります。  特に沖縄は、米兵の暴力被害をずっと被ってきたと思うのですが。(前泊氏のPower Pointを指しながら)今、犯罪件数とかありましたね」 前泊「このことでもそうなのですが。例えば、法のもとの不平等ということで、日本人が犯罪を犯した時の起訴率は42.2%。ところが、米軍は16.2%。なぜこんなに差が出るのか」 岩上「『2010年の県内で発生した』と書いてありますから、これは沖縄県内なんですね」 前泊「はい。日本全体のものもありますが。全国の場合でも、こういう『起訴率』というのがあります。例えば、全国の場合でも13%というような、起訴率があります。日本全体で42%ですから、この差。  『なぜ、米軍はこういうふうに守られるのか?』ということですよね。実は『国内法を適用する』あるいは『第一次裁判権を日本が持つ』ということを主張した場合、どうなるかというと、アメリカは出て行きます」 岩上「アメリカは出て行くんですか?」 前泊「この前例があるのはイラクです」 岩上「なるほど」 前泊「イラクは『日本のように不平等条約を結ばない。地位協定上、犯罪者は我々が裁きます』と言って、第一次裁判権を譲らなかったんです」 岩上「すごいですね。あそこまで国を滅茶苦茶にされても『それは嫌だ』と言い切ったんですね」 前泊「『嫌だ』と。そうしたら、アメリカは『じゃあ、もう出て行く』と言って出て行ったんです。撤退をしたのはそれが理由ですね。実は、民主党の改定案の中にも、そのことがすごく明確に書いてあるんです」 岩上「これは『民主党地位協定改定案2005年8月3日』(※)。政権を取る前の、野党時代のものなのですね。これはこういう形で公開されているんですか?」 (※)2005/08/03 民主党の日米地位協定の見直し案(改訂)(民主党HPより) 前泊「インターネットで検索してください。より詳しいのが書いてあります。今も消していませんから残っています。この改定案がすごいんです」 岩上「素晴らしいのですか?」 前泊「画期的です。これが実現していてくれれば『民主党はすごい』と思うのですが。例えば『米軍は、8年をめどに使用計画を出せ』と。つまり『8年ごとに基地を見なおせ』と。『日本側が審査する』と。『それでダメだったら返せ』ということですよね」 岩上「すごいじゃないですか」 前泊「それから『原則的に日本の法令は適用される』と。つまり適用されてないから『適用しろ』と言っているんです。逆読みすると現状が分かりますよね」 岩上「つまり『治外法権に現状はなっているんだ』ということですよね」 前泊「そうです。それから『環境保全』。実は、環境条項がないのが、この地位協定の遅れている部分です。一度も改訂されてないために……韓国は、途中で改定をして環境条項を入れたんです。『やはり、汚染物質はちゃんと処理しろ』と。『流した場合は責任を取れ』とか、そういうものがあるのですが……ないので、それを入れると」 岩上「韓国の方が、主権を主張しているということですね」 前泊「激しく騒ぎますから。アメリカも抑えるために『これはしょうがない。飲むか』というのがあるんですね」 岩上「日本は何にも言わないから、非常に不利な状況が」 前泊「そのままです」 岩上「続いている」 前泊「そして、民主党は環境問題について『日米両国の環境基準のより厳しいほうを採用する』と。すごいですよね。日本とアメリカを比較して、アメリカが優れていたら、アメリカの基準でやりましょうと。  『米軍の活動により生じた環境被害は、米側が原状回復措置を取る』と。実は、日本は原状回復義務を課していません。撤退する時に、アメリカは汚したまま帰っていきます」 岩上「これは大変なことですよね。実際に、軍が基地を置いたりすると、燃料が溢れていたりとか、武器弾薬を使っているわけですから、ひどく汚染され続けているというのは、どこでもある話ですよね」 前泊「これは、返された時に、沖縄でも多発したのですが」 岩上「一部が返還された、その後に」 前泊「そこで出てきたのが、大変な状況でした。重油……PCBが穴に埋められていたりとか」 岩上「これは沖縄国際大学ですか?(前泊氏のPower Pointを指して)」 前泊「これは、ちゃんと返還された後ですね。そういうことが起こったりしました。それから、これはPCBですね。実は、簡単に掘られた穴に、全部、溜められていたんです。それを基地乗員が告発をしたんですね。『こんなことしています。大変ですよ』ということで、通報があったので、渋々動くんですが、基地の中は立ち入りができないんですね。  これは、地位協定上『管理権』というのが認められているので、立ち入れないんです。そういう危険な状況にあるという通報があっても、日本の国内なのに、フェンスの内側はアメリカになっていて、軍の管理下にあるので入れないんですね。  いくら言っても、調べさせてくれないので、飛行機で飛んだら確かに黒い池があったんです。『これはそうだろう』というふうに突きつけて、行ってみたら『ないですよ』と。そして、行ってみたら埋められていたんです」 岩上「え?! 埋めていたんですか?」 前泊「それで『ここだ』というのがあって、調べたら出てきたんです」 岩上「それは、琉球新報が飛行機を飛ばして、写真を撮って、そして米軍の司令部などに言ったということですか」 前泊「県、市町村の自治体を通して『言われた通りこういうのがありますよ』と伝えたんです」 岩上「なるほど。米軍に言ったのではなく、まずは県の方に伝えたんですね」 前泊「それで、当然、自治体はそれを『確認させる』と言って、しょうがなく行って……そして、見つかったらPCB……もう大変なことですよ。嘉手納というのは、実は、沖縄の中でも豊かな地下水源の場所なんです。  あそこは、復帰前は、いわゆる沖縄の県民の飲水の20%を地下井戸で採っていたぐらいのところなんです」 岩上「20%」 前泊「豊かな地下水源を持っているんです。実は、それをペリーが来航した時に調べて知っていたので、アメリカは迷わずそこに基地を作っているんです」 岩上「ペリーですか?」 前泊「はい。ペリーです」 岩上「そんな時代から、ずっとそこに狙いを定めていたということですか?」 前泊「はい。だから、迷わず中部に入ってきて、そこに基地を作りました。水があるからですよね」 岩上「沖縄戦の時の話ですよね。でも、ペリーの来航からそこまでが繋がっていたんですね」 前泊「ペリーの来航記を読んでみれば分かりますが。沖縄の記述が、多分、岩波の文庫本だと、5巻か、4巻あって、その中の2巻半ぐらいが沖縄の記述ですね」 岩上「まだ、読んだことがないのですが」 前泊「ペリーは、沖縄に入ってきた時に……最初、日米和親条約(※1)を結ぶ前に、琉米和親条約(※注)を結びますが……『日本が、もし開国に応じない場合は琉球を占領しよう』ということを、大統領から許可をもらって入ってきていたんです」 (※1)日米和親条約: 1854年江戸幕府がペリーと結んだ条約。下田・箱館両港へのアメリカ船寄港,薪水・食料などの補給,下田に領事をおくことなどを認めた。貿易は認めなかったが開国の端緒となる。神奈川条約。(Kotobanku.jp大辞林 第三版の解説より) (※注)「琉米和親条約」とは「琉米条約」のことと思われる。 アメリカのペリー(Matthew C. Perry)提督の来航により、アメリカと琉球(現在の沖縄)との間に締結された条約です。水、食料、燃料(薪)の補給、遭難船の救助、外国人墓地の保護等を約束したもので、「琉米修好条約」とも称しますが、正式名称は「亜米利加合衆国琉球王国政府トノ定約」といいます。  ペリーは1852年11月24日(嘉永5年10月13日)に本国アメリカを出発し、喜望峰、シンガポール、香港等を経て翌年5月26日(嘉永6年4月19日)那覇に到着しました。当時の琉球は、薩摩藩島津氏の統治下に置かれていましたが、他方中国(清国)との朝貢関係も維持するという「両属」の体制にありました。琉球の政府高官に修好の希望を伝えたペリーは、琉球を根拠地として日本周辺の調査を行い、その後浦賀で国書を日本側に渡し、一旦上海に引きあげました。翌年再渡航したペリーは、1854年3月31日(嘉永7年3月3日)に日米和親条約を調印した後琉球に向かい、1854年7月11日(同6月17日)、琉球国中山府「総理大臣尚宏勲」および「布政大夫馬良才」との間に「琉米条約」を調印しました。 (外務省:外交資料 Q&A幕末期より) 岩上「すごい話ですね」 前泊「それは、ペリー来航記で検証をすれば分かりますが。その時に、基地を作るための調査をすでに終えているんですね」 岩上「ものすごく前から、計画をしていたということですね」 前泊「その飲水の上に、PCBの池を作ってはいけませんよね。地下浸透していくと、大変なことになります。ですから、これを掘り出して、ドラム缶に詰めて保管することになったんです。  『これはアメリカが汚したので、アメリカに持ち帰れ』ということで、処理をさせるということになったのですが、これを、船に乗せて横須賀経由で本国に送り戻すのですが、本国で追い返されるんです。アメリカの国内法で『こういう汚染物質を持ち込んではいけない』という環境法に引っかかって、追い返されて、横須賀に戻るんです」(※注) (※注)「驚き、あきれ、憤る/在日米軍PCB」2000年4月18日(琉球新報より) 岩上「ええ?」 前泊「日本の環境団体は、当然、反対運動をして、激しく反対をして、また寄港したのが出て行くのですが、その後、どこへ行ったのか分かんないです」 岩上「どこに行ったか分からないんですか?大体、何年ごろの話なんですか?」 前泊「これは、大体十四、五年前ですかね。こういう問題がありました。私もフォローしなければいけないのですが。そういうことがあったので、その後どうなったのか、防衛省にでも確認をして頂いて……」 岩上「太平洋に投棄でもされていたらたまりませんね」 前泊「きちんと処理をしてくれていれば良いのですが」 岩上「先程、画面を切り替える時に……今、お勤めになっている沖縄国際大学にヘリコプターが落ちたこの図があります。この時も……この写真は撮れていますが……機体の処理に関して、非常に治外法権というものを感じさせることがあったと聞いております。これに関して、本来ならば、こんな事件が起こったのですから、日本の警察がまず一時的に捜査の対象としますよね。  ところが、警戒線を米軍が張り、日本の警察も行政も立ち入りが禁止されて、この処理が行われたというふうに聞いています」 前泊「『これはアメリカの財産』と地位協定上で決められているんです。アメリカが落としたものとはいえ、アメリカの財産ですので『アメリカの財産を管理する権利はアメリカにある』ということです」 岩上「そういう理屈になるんですか?」 前泊「はい。それで、これが敷かれたんですね。実は先程の、民主党の改定案を見ると、この問題点を、やはり民主党も分かっていて非常に明確に書いています。  『事故が起こった場合に、施設区・区域外で発生した現場統制は、日本側が第一義的な統制を行なう』と書いているということは、それがないからですよね」 岩上「なるほど。今は、統制をおこなう権利がないから、統制を行なうんだと。これは、すごく画期的ですよね」 前泊「そうなんですよ。それから『日本側から身柄の引渡しの要請があった場合、米国側は好意的考慮を図る』というふうに、現行には書いてあるのですが。民主党は『米側は同意する』と。有無を言わさず同意しろというふうに要求をしているんです」 岩上「なるほど。後『基地外に居住する米軍関係者に、外国人登録に関する日本の法令を適用する』と。これは、在日外国人と同じ扱いですよということですね」 前泊「同じ扱いではないから、適用するということなのですが。それから『公務中のもであっても日本が第一次裁判権を持つ』と。これもすごいですよね。ですから、これをすれば、イラクと同じようにアメリカは出て行きますよ、ということです」 岩上「これをやれば良いんじゃないですか」 前泊「やれば良いんです」 岩上「この民主党の『地位協定改定案』が作られたのが2005年でしたよね。2005年ということは、ちょうど小泉政権ですよね。そして、米軍再編が」 前泊「が決まった時です」 岩上「この2005年は、非常にある意味ではターニングポイントになりますね。孫崎さんの、実質的なデビュー作に『日米同盟の正体』という本がありますが。あの『日米同盟』という条約が結ばれたのも2005年でした。変革と再編。  これは、ものすごく重要な歴史的なターニングポイントだと思います。そして、その時、民主党は非常に攻めに攻めた協定の改定案を作っていた。  つまり、日本が実はどういう地位に置かれているのか、留め置かれているのかということを、よく自覚している人たちが民主党内部にいて、こういうものをまとめたということですよね」 前泊「そうです。『対等な日米関係とはどういうことか』。これは、地位協定を読めば分かります。これが不平等条約ですね。  残念なことに、外務省の敷地の中に、小村寿太郎さんという方の銅像があります。不平等条約を改定したということで銅像が建っているのですが『この不平等条約は誰が改定するのか』ということですね」 岩上「なるほど」 前泊「小村寿太郎が出てこない限り、この不平等条約は改定されないのですが。民主党は、きちんと改定案を作って不平等からの脱却を打ち出しています。これは画期的なのですが、なぜか政権を取った時には、この存在すらもう忘れているんです」 岩上「なるほど。これは誰が作ったものか分かりますか?」 前泊「いえ。民主党の中で議論をして作っているはずなのですが。詠み人は誰なのでしょうか。当然、これは党として決めていますから……この後、社民党と一緒になって、三党合意案も出していますが、その中でもこれはしっかりと書かれていますね」 岩上「ということは、民主党の幹部は共通認識として持っていたということでしょうか?」 前泊「もちろん、そうだと思います」 岩上「ところが、民主党には色んなことがありました。内部分裂のような状態になり、結局、明らかに対米従属派と思えるような人たちが民主党の中で生き残り、そして国民の信頼を失っていき、自己解体というか、壊滅の方向に向かって行った、そういう不思議な政党なんですよね。  この改定案で、これだけ対米従属からの脱却ということを、はっきりと意識していたのだとしたら、これは日本国内で対米従属を続けたいと思っている人たちにとっては不都合だろうと思いますし、なによりも、アメリカにとって、これは非常に不都合なことですよね。これだけ発信をしていれば、アメリカ側も気づいていたと思います。  ところが、民主党政権ができた時に小沢さんが代表でした。あの時、2009年に陸山会事件というものが起きなければ、民主党が大勝し、小沢政権が誕生していたかもしれません。  しかし、なぜか陸山会事件が起こり、小沢代表が降りて、そして鳩山政権になっていきました。そして、その後も色々なことがあって潰されていくわけです。  先程も、冒頭で言ったことなのですが『この本の中には不思議なことが書かれている』。つまり、普通、日米地位協定という話であれば外交安全保障の話ではないかと思いますよね。  ところが、この本の冒頭を読めば、原発再稼働の関係と並んで、検察の捜査報告書の捏造問題との関係があるんだということが分かる。これは『日米地位協定が分からないと分からない』という話ですよね。これはどういうことなのでしょうか?」 前泊「例えば『基地を維持するためにどういうことをしているのか』と言いますと。  例えば、砂川事件(※1)が有名ですね。ジラート事件(※2)もありましたが。砂川事件というのは、まさに基地に反対をしている住民がいて、反対運動をしていた。そういうことが起こっている時に、司法としてこれを訴えた時に『主権国家の中に外国の軍隊がいる』と。『しかも、それに日本が金出して作っていることも含めて、これおかしいだろう』、『これは違憲である』というような伊達判決を出すんです」 (※1)砂川事件:日米安保条約および米駐留軍の合憲性が争われた事件。1957年7月8日,東京調達局は,米駐留軍が使用する東京都下砂川町の基地拡張のために測量を強行したが,これを阻止しようとする基地拡張反対派のデモ隊の一部が米軍基地内に立ち入り,刑事特別法条違反で起訴された。この訴訟で,被告人らは,安保条約およびそれに基づく米国軍隊の駐留が憲法前文および9条に違反すると主張したので,一大憲法訴訟となった。第一審の東京地方裁判所は,59年3月30日,安保条約は違憲で,被告人らを無罪とするという判決を下した(いわゆる伊達判決)。(Kotobanku.jp 世界大百科事典 第2版の解説より) (※2)ジラード事件:1957年(昭和32年)1月30日、群馬県群馬郡相馬村(現・榛東村)で在日米軍兵士・ウィリアム・S・ジラードが日本人主婦を射殺した事件。 なお、ジラードへの処罰を最大限軽く(殺人罪でなく傷害致死罪で処断)することを条件に、身柄を日本へ移すという内容の密約が日米間で結ばれていたことが、1991年に米国政府の秘密文書公開で判明した。日本の外務省が1994年11月20日に行なった「戦後対米外交文書公開」でも明らかとなっている。(Wikipediaより) 岩上「伊達さんという裁判長が判決を下したんですね」 前泊「それに対して『どうする』と大騒ぎになるんです。『違憲だ』、『これは大変なことになった』となって、アメリカが動くんです。いきなり、最高裁の長官を呼び出して『これなんとかしろ』と」 岩上「日本の最高裁長官を呼び出して『何とかしろ』と」 前泊「最高裁長官が呼ばれて行って『なんとかしましょう』と。普通は、地裁から上がったら高裁に行って、最高裁に行くのですが。いきなり、地裁から最高裁に飛ばされるんです」 岩上「跳躍と言いましたね」 前泊「はい。跳躍をして、そして最高裁がいきなり『これは合憲だ』という判決を下したんです。つまり、アメリカが司法権に介入をしているんです。日本の司法は、介入をされても、もう反論しようがない、反証しようがない。  同じようなことが……実は沖縄でも『伊江島事件』(※注)というものがありました。これは『山城くん事件』とも呼ばれています。この時も、実は、第一次裁判権を」 (※注) 伊江島の米兵発砲事件:1974年7月10日、伊江島の米軍射爆場で演習終了後、草刈りのため立ち入った住民を、米兵が追い掛けて至近距離から狙い撃ちし負傷させた事件。米国は当初、米兵が「公務外」であるため第一次裁判権を日本に渡すと通知したが、後に「公務中」と方針転換した。日本政府はこれに反発し、日米合同委員会で半年以上にわたって協議したが対立。日本政府は75年5月6日、「問題を遷延させるのは日米間の友好上好ましくない」などの理由で裁判権を放棄し、問題の終結を図った。(琉球新報 裁判権放棄で日米「覚書」 74年伊江島事件 2008年5月18日より) 岩上「この『伊江島事件』というのはどういう事件なんですか?」 前泊「これは、沖縄の演習地で……米軍が演習で使っている時は、旗が上がっているので、その間は入れないのですが、旗が降りたら演習が終わった後なので、入っていって薬莢を拾ったり、草刈りをしたり、牧草を取ったり……基地に場所をたくさん取られているので、入りあいを認めているんですね。そして、演習が終わったので、山城くんという若い青年が草刈りに行ったんです。  そしたら、米兵が二人、ジープに乗って、きつね狩りを楽しむように、この青年を追い回したんです。最後は、崖に追い詰められて、銃で……信号弾で彼を撃ったんです。庇い手をするので、手が折れたのですが。その手をのけていれば、頭に当たって死んでいますよね。こういう事件が起こりました。  これは、演習が終わった後ですので公務外ですよね。公務外ですから、当然、第一次裁判権は日本側が持つのですが、これを日本側は放棄するんです。そして、アメリカ側に委ねるんです。その判決はというと『罰金刑』です。  これを、その後『日米地位協定の考え方』(※)という外務省が作っている機密文書の中を読むと、これは明らかに司法権に対する行政権の介入……つまり、三権分立違反なんです。裁判権を放棄してしまうわけですから。 (※)日米地位協定:琉球新報が2004年1月13日、「日米地位協定の考え方」と題する文書を公表した。これは、外務省が日米地位協定の具体的な解釈をまとめた、とされる文書で、この中では日米地位協定の文言以上に米軍の利益を擁護する解釈が示されており、地位協定を改定するべきであると主張する人々は、この「考え方」も問題点の一つだと主張しているが、外務省は文書の存在を否定している。(Wikipediaより)  それを、司法にも相談なしにやって『こういうことは二度としないでおこうね』と書いているんです。そして『国会で問題にならなくて良かったね』とも書いています。そういうことが起こったりしているんですね。  それから、逆に言えば、運用の面でも、実は地位協定の運用が、運用上、適用されてはいけないものにも適用されたりもしているんです。アメリカで、出稼ぎに行っていた日本の青年が徴兵されて、アメリカ軍に入れられてベトナムに送られそうになったんです。  これは『二見寛事件』というのですが、二見さんという人が、徴兵をされてしまうんですね。『このままいけばベトナムに送り込まれて死ぬかもしれない』というので、彼は脱走をして、カナダに亡命するんです。  そしたら、カナダは『我々はこれを受け入れられない』ということで、日本に強制送還をするんです。そして、彼は日本に戻り、千葉の知人宅に隠れているところに外務省が来て説得をするんです。『君は脱走米兵だから帰りなさい』と。『日本にいたら大変なことになるよ』ということで、アメリカに戻されるんですね。  これは、地位協定上『脱走米兵については引渡し義務がある』というふうになっているのですが。彼は本国で徴兵をされているので、在日米軍ではないんです。  つまり、日米地位協定は適用されない。されないどころか、国際法上も『自国民の保護』ということは認められているんです。地位協定よりも上になるのに、外務省は引き渡してしまったんです。 もとはと言えば、本来、徴兵されるのがおかしいんですよね。『これは憲法違反じゃないか』と。  どうしてそうなったのかと言うと『徴兵免除協定』を、日本の外務省はアメリカと結んでいなかったんです。タイとか、他の国とは結んでいて『お互い徴兵をしない』という決まりがあったのに、アメリカとは結んでなかったために、当時の資料を見ると『500人以上が徴兵をされて、ベトナムに送り込まれた可能性がある』という話があるんです。  それについて、国会でも議論になったのですが『詳細を把握していません』というのが、外務省の報告なんですね。そういうことが起こったりしました。  つまり、本来、日本の法律上も出来ないことがされてしまったり、それから日本の法律がしっかり適用されるのに放棄してしまったり、ということが起こっているんです。アメリカを前にすると、全て譲歩をしてしまう」 岩上「これは、すごく重要な話ですよね。実例は、もっとたくさんあると思うのですが」 前泊「この本の中に、たくさん書いていますので、是非、読んで下さい」 岩上「もちろん、当たり前のことですが。日本は、1年間に多くの裁判がありますので、その裁判の全てに米国が介入をするわけはありませんよね。『国内問題だ』ということで、米国が等閑視していることはあるだろうとは思いますが、米国にとって非常に死活的な利害とか、何かがあるとやはり介入してくる。  そして、米国、米軍が直接ではなく、日本の行政、あるいは、司法に直接的に働きかけてくる。そして、彼らを使って日本の国内の政治に関与してくる。  民主党が、2005年という非常にナーバスな時期に、こういう改定案を出していて、そして米国からの独立、対等な関係を本気で考えていたとしたら、これはアメリカの知るところであったと思います。  そして、2009年に政権交代をした時に、小沢一郎代表をそのままにして、小沢政権を成立させてはいけないと考えた可能性があると思います。そして、そういう時に『陸山会事件』というようなものが起こった可能性がある。  だからこそ、あの無茶苦茶な陸山会事件……結局、無罪になり、無罪が確定しました。でも、その過程では捏造事件があって、ものすごく無理筋なことをやっているわけですよね。  しかも、先程の伊達判決でお話が出ましたが……最高裁長官がアメリカ側から呼び出されて、会っているという話でしたが。この間、現在の最高裁長官も渡米をしましたよね。それが、小さな記事になりましたが、何を話しに行ったのか、未だに分かりません。そこが非常に似ていると思うのですが」 前泊「いえ、似ているのではなく、状況は変わっていませんから」 岩上「状況は変わってない」 前泊「ですから、そのまま『アメリカの意向』というものが非常に尊重されるんですね」 岩上「そうなりますと、陸山会事件、そして民主党政権のものすごい変節と、国民に対する背信。そして、こうしたこと全てを忘却していることは『米国の圧力にこれからもずっと屈し続けて、ポチで生きていきたいと思っている日本の官僚、政府、それから政治家、あるいは支配層の共同謀議による謀略である』ということになるのですが。これは、ものすごい話だと思うのですが」 前泊「そうですね。ですから、本当に国民が知っていれば、そういうことは許されないはずですし、こういうことは、裏でコソコソやるから苛めに遭うんですよね。『みんな、こんなことをされていますよ』と言えば、アメリカもできないと思うんですよ。どうしてそれを言わないのか。  例えば、鳩山さんが政権を取った時に『最低でも県外』と言って、普天間基地を移そうとしました。そのことを、いくら言っても……逆に党内で、あるいは政権内で」 岩上「足を引っ張ったわけですよね」 前泊「そうですよね。防衛大臣の北沢さんは『辺野古移設で行きます』と。あるいは、外務大臣が『嘉手納統合案で行きます』と。しかし、総理大臣が言っていることを聞かない閣僚がいた。普通ならば『閣内不一致』と言って、総理大臣が首にできるのですが、首にはしませんでしたよね。  逆に、数カ月後には『学べば学ぶほど、抑止力が必要で、海兵隊を沖縄に置いておくしかない』ということで、辺野古に回帰をし、彼は責任を取って辞めてしまいました。  総理大臣が決めても、実現ができずに、普天間基地問題一つで首がすげ変わってしまう。『基地問題に手を出すと首が飛ぶ』という前例を作ってしまいましたよね。  過去を振り返ると、同じようにオイルショックの時に、直接、中東から石油を買いに行った総理大臣が、いつのまにかロッキード・コーチャン事件(※注)という、アメリカ発の疑獄に追い込まれて、首が飛んで行きました。そういう事例が、孫崎さんの本の中にたくさん出てきます。 (※注)ロッキード事件:ロッキード社(ロッキード・マーティン社)の航空機の購入をめぐり,日本の現職首相をまきこんだ国際的な贈収賄事件。1976年2月,アメリカ上院におけるロッキード社コーチャンArchibold C.Kotchian副会長の証言で明るみに出た。ベトナム戦争で大量の兵器を生産・納入したロッキード社とニクソン合衆国政府との結びつきは強く,同社はベトナム戦争後の政府需要の減少を輸出増進で補うため,会社からの贈賄とニクソン政府を通じた売込みとを組み合わせて,外国に強引に発注させる方策をとった。(Kotobanku.jp 世界大百科事典 第2版の解説より)  『戦後史の正体』の中で、まさに明らかになってきたもの……その裏側に行くと、やはり『安保問題、基地問題、そして地位協定の問題に絡むと危ない』というのが分かってきますね」 岩上「なるほど。沖縄返還……先程、冒頭に謎かけのようにおっしゃいました。『なぜ、72年だったのか』と。『なぜ、72年だったのか』というと、まさにオイルショックを前後するような時期ですよね。そういう時期であり、そして同時に、日中国交回復の時期でもあった。  戦後史の中では、大きな節目になる時代ですよね。『なぜ、72年だったのか』という、先程の問いだけおっしゃられて、お答えを教えて頂いていないのですが。なぜ、72年だったのでしょうか?」 前泊「一つは、西山さんの説ではありますが。彼は実際に取材をしていて『なぜ72年か』と。つまり、返還交渉が、72年ありきからスタートをするんです。  これは、佐藤政権が最後の時期で、もうこれ以上は伸びないという。つまり、デッドラインが最初に決まったのが、72年なんです。佐藤政権の最後です。  その時に、実は佐藤さんは、成果らしい成果はなにもあげていなかったんです。その前に、池田内閣が高度成長で所得倍増計画をやりました。しかし、佐藤さんに残されている、成果をあげられるものは、もう沖縄返還しか残っていなかったんですね。  それを実現するためには、あらゆるものを飲んででも、とにかく返還ありきの交渉をしていく『そのために密約がたくさん生まれてしまった』と。『飲まされるたびに』ということがあったみたいですね。  これも、今まさにプロジェクトで調査中なのですが。西山さん自身が言っていたのは、アメリカの財務の問題ですね。お金がなくなってきた。  しかし、お金を次々に出さざるをえない。それを出すための仕組み、その時に最大に取れるものといえば、それは沖縄ですよね。『糸売って縄を買った』と言われていましたけども。『繊維交渉で譲って、そして沖縄をもらった』」 岩上「『糸を売って縄を買った』」 前泊「と言われましたけれども」 岩上「繊維交渉があり、そこで日本が譲歩することで沖縄を返還させた。これが『糸を売る』と。しかし、繊維交渉で日本は何を譲歩したのでしょうか?」 前泊「つまり、輸入でも輸出でも低関税で次々に出していく、安いものを次々に出していくと、アメリカの繊維産業を淘汰しかねないという時に、日本側が輸出を制限するということですね」 岩上「『自主規制をしていく』ということですね」 前泊「そのことによって、アメリカ側に恩を売って『沖縄の返還交渉に臨んでもらう』というような交渉をしていったと」 岩上「なるほど」 前泊「今度、沖縄返還にあたっては『この時期に』というのが……1970年は、実は変動相場制に移行しますね」 岩上「そうですね。ニクソン・ショック(※)」 (※)ニクソン・ショック:米国は、1960年代にベトナム戦争や対外的な軍事力増強などを行った結果、大幅な財政赤字を抱えることとなり、国際収支が悪化、大量のドルが海外に流出。米国は金の準備量をはるかに超えた多額のドル紙幣の発行を余儀なくされ、金との交換を保証できなくなり、1971年8月15日、米大統領ニクソンはドルと金の交換停止を発表。これによりブレトンウッズ体制は崩壊、米ドルは信用を失って大量に売却され、大暴落した。 (Kotobanku.jp 外国為替用語集の解説より) 前泊「1ドル360円が、315円になりました。2割減ですよね。沖縄の資産からすれば、2割減るんです。1,000万持っている人が、800万に減る。1億持っている人は、8,000万に減る。全体の量を考えても、ものすごく大変なことですよね。  それを交渉していくのですが。『この時期に』というのが、ちょうど全て重なっていくんです。その裏側でなにが動いていたのか。それを、まさに今、再検証しているのですが。  40年経って、今ようやく民主党が政権を取ったこともあり……自民党政権だったら出なかったかもしれない密約の数々を、40年も経っていますので、情報公開をしてきたんです。  その中を見ていくと、裏金の動きとか、密約問題もそうですが『密約はなかった』と言っていたのに、実はあったということが分かっていますよね。実は、アメリカ側が開示をしていますから」 岩上「アメリカが出してきている」 前泊「チグハグになっているんですよね。アメリカは公開しているのに、日本は『まだ知らない』と言っているような話なのですが。こういうものを、1つずつ見ていくと、実は地位協定の問題も、その段階で、もっと出てくる可能性があるんです。  つまり、沖縄返還というのは、沖縄に地位協定が適用されるんですよ。しかし、それまで、地位協定は沖縄には適用されていないんです」 岩上「なるほど。それまでは米軍の……」 前泊「統治下ですから。だから、核兵器を置けたんです。非核三原則が適用されていませんから。  ところが、返還となると、ここに地位協定が適用される。そうなると、非核三原則も適用されるし、沖縄の基地の使い勝手が悪くなるんですね。そこで『どうするのか』というので、運用面でいくらでも使えるように、どんどん解釈を出していく。  それが、前にスクープをして報告をした『地位協定の考え方』という、外務省の機密文書に出てくるんです」 岩上「それは、今この資料の中にありますか?」 前泊「この中には入れていません。でも、インターネットで探せば、全文が開示をされていますし、 増補版(※注)は本で出版をしましたので、最初の段階でそれが出ています。それを読めば『地位協定がいかに国民の権利を蝕んできたか』ということが分かります。 (※注)増補版とは「外務省機密文書 日米地位協定の考え方 増補版」のこと。 琉球新報社=編 出版社=高文研 A5判・224ページ 2004年12月発行 以下『外務省機密文書 日米地位協定の考え方 増補版【立ち読みコーナー】』より 本書は、外務省が一九八三年一二月に作成した機密文書「日米地位協定の考え方・増補版」の全文である。表紙には「秘 無期限」とスタンプが押され、外務省が門外不出とする文書である。  中身は、日本に駐留する米国軍隊の地位と提供施設・区域(在日米軍基地)の提供、運用の取り決めである「日米地位協定」の政府としての公式な解説書である。  「増補版」には、基本となる原本がある。原本は一九七三年四月に作成された。同じく表紙には「無期限 秘」と記され、非公開とされている。全一三五ページの原本の中身は、「増補版」と同じく政府の日米地位協定に関する公式見解、国会答弁、条文解釈、問題点などを網羅している。(高文研より)  そういうものが、実は沖縄に適用されて、沖縄の中で大きな歪みを生んで、その歪みを生んでいることが、実は日本の中でも歪みが起こっていたことが、ようやく明らかになっていくんですね。それを見れば、失われたものがどれだけあったかということが分かります」 岩上「沖縄返還の問題というのは、北と南ですが、北方領土の話と無関係ではなかったんですよね。北方領土の2島返還で妥結しようとしたら、アメリカ側から強い圧力がかかって『そういうことならば、沖縄は返さない』というような、恫喝がかかったという話もあります。  ですから、沖縄だけを見るのではなく、日本全体、日本という国の主権が侵されている問題なんだと。それが、基地問題にしても、米軍との関係にしても、全て沖縄の問題だとして片付けられがちなんですよね。  しかし、実際、当事者でない人たちには分かりませんから『沖縄だけのことなんじゃないか』ということになって、(フリップを画面に映し出す)ここに項目の一つとして書きましたが『米軍基地の問題は沖縄だけの問題なのか』と。  実際、この米軍基地を成り立たせているのは地位協定ですし『日本には主権がない』という状態のことなのですが」 前泊「冒頭に、岩上さんが出された……(横田ラプコンの地図が、画面に映し出される)これは、一つの象徴ですよね。首都圏の空域を、外国軍隊に占拠されているというのはありえないことです。 しかも、横田ラプコンの中は……つまり、交通整理を……例えば、銀座の交差点の交通整理を、米兵が出てきてやったら『どうして?』と思いますよね。  でも、それが普通にやられるんですよね。航空法上、これがやられている。『おかしいじゃないか』と言ったら、その地位協定に書いてあることは『従う必要は確かにない』と。  『主権は、確かに日本にあるので、米軍の指示に従わなくても良い』と。『でも、従わないで事故が起こったらパイロットの責任だからね』とあるんです。『パイロットは否応なく従うだろう、だから、そこまで書かなくても良い』という解釈まで書いてあるんですよ。  『他国軍隊の指揮下に置かれること自体はおかしい』というのは、外務省も認識しているのですが、それをなぜか残し続けている。  石原慎太郎さんも『横田ラプコンについては返せ』というふうに、一生懸命動いたのですが」 岩上「そうですね。横田の基地問題を言って、そして東京都知事におなりになられたんですよね。ですから、石原さんに期待をした人は多かったと思います。『本当に愛国的な政治家なんだ』と。ところが、これは進みませんでした。どうしてなのでしょうか?」 前泊「やはり、彼ですらも、この事に対しては触れることができなかったんでしょうね。アメリカの支配権を取り戻すことが出来ない。沖縄は取り返したんですよ。嘉手納ラプコンを、実は返還をさせました」 岩上「嘉手納ラプコンは、この資料(前泊氏のPower Pointの資料を指す)の中にありますか?嘉手納ラプコンというのはどういうものなのでしょうか?」 前泊「つまり、沖縄本島全体を包む形で……実は沖縄の基地というのは、陸上の基地が沖縄本島の20%を占めているのですが。この基地の他に、周辺に、空域、海域含めて演習エリアがあります。  実は、この全体のエリアは米軍が管制圏を握っていました。そうでないと、訓練空域での訓練がスムーズにできないということで、ずっと全体を包んでいました。  那覇空港は『この周辺だけ日本の管制圏が及ぶ』ということで、全体をアメリカに取られていたのですが。これを5年前に返還をさせました。そして、自由に使えるようになったはずだったんです」 岩上「これは、沖縄の県民のみなさんの運動の成果ということですね」 前泊「そうです。今も沖縄に観光に行くと分かると思いますが、沖縄那覇空港に近づくと、飛行機が低空飛行になるんです。低空飛行になるというのは、実は嘉手納の横に那覇空港があるので、交差しているんですね。  交差をすると、嘉手納に入ってくる飛行機と、那覇に入って行く飛行機が交差をしてしまうので、高度を変えるんです。実は、上の方の安全な空域を米軍側が使って、民間機はその下をくぐらされているんです。  普通は、安全に飛ぶためには、ギリギリまで上空を行って、エアポケットに落ちて、高度が2、300落ちたりしますから、ギリギリまで上で行っていて急角度で着陸をしていく、ということが安全な運行なのですが。  沖縄の場合は、嘉手納の安全な空域を確保しているために、民間機がその下をくぐらされている形で、長く低空飛行をする形になっているんです」 岩上「軍尊民卑」 前泊「そういう形ですね」 岩上「米尊日卑みたいな形ですよね」 前泊「『それはおかしい』、『管制圏を日本に返せ』ということで、日本に返させたのですが、運用は変わっていないんです」 岩上「運用が変わっていないんですか?」 前泊「変わっていません。何にも変わっていないんです」 岩上「理屈上、返しただけということですか?」 前泊「はい。それを返す時の条件が『これまで通りの権利をアメリカによこせ』というものでした。ですから『空域を返してもらって、主権を取り戻しても、米軍優先が変わらないのであれば、どんな意味があるのか』という話なんです」 岩上「沖縄の人たちからすれば、自分たちが一生懸命に交渉をして変えたのに、結局、その上位いる日本政府がしっかりしないために、結局、それが台無しになっている。『いい加減にしてくれ。しっかりしろよ、日本政府』ということを言いたくなりますよね」 前泊「そういうことです。しかも、観光客がたくさん乗っていますし、国民の安全に関わる問題ですよね。そして、当然、なにかあった時には、米軍機ならば脱出ができますが、民間機はそういうことはできませんよね、脱出をするための装備が付いていませんから。  やはり、安全な空域を確保するというのは当たり前のことですよね。  先程の横田ラプコンもそうですが、あの大きな山脈が東京の真横にあるために、四国や、大阪や、北陸に行く時には、迂回するか、急上昇をして、その上を通って行かなくてはいけない。そのために、航空機の燃料が余分にかかるということで、燃費が悪くなってしまうわけです。急上昇をするわけですから。そういうことが危ないということで、早く返してくれと。  あるいは、横田ラプコンの中は通れませんし、通る時にアメリカの言うことを聞かないといけない。そこで、色々な問題が起こっているのではないかと思います。  実は、前に流星号事件(※注)という事件があったんです」 (※注)「流星号事件」とは「1999年(平成11年)11月22日の事故」のこと。 、1999年(平成11年)11月22日、入間基地の航空総隊所属の1機が墜落し、乗員2名が殉職、墜落時の送電線の切断により約80万世帯が停電するという事故が発生し、残存していた8機全機に対し飛行停止処分が課され、地上に留置されたまま翌年2000年(平成12年)6月に除籍された。 T-33は、アメリカ空軍初の実用ジェット戦闘機P-80から発展した、初の複座ジェット練習機。 米空軍における愛称は、原型のロッキードP-80同様シューティングスター(Shooting Star:流星の意)。米海軍でもTO-2(1950年以降TV-2と改称)の名称で使用された。生産開始から半世紀以上経過した1990年代以降も現役で、日本の航空自衛隊でも1954年から2000年まで運用されていた。(Wikipediaより) 岩上「なに号事件ですか?」 前泊「流星号事件です」 岩上「流星号事件」 前泊「『日本の民航機が、間違って撃ち落とされたのではないか?』という疑惑があるんです。それも、まだ謎に包まれています。なぜ墜ちたか分からないんです。  あるいは、日航の123便(※注)でもそういう疑惑がありましたよね。『なぜ、あそこで急に圧力隔壁が飛んだのか』という話もありました。これも謎のままですよね。『整備ミス』という話で、ボーイング社の責任にされているみたいですが」 (※注)日本航空123便墜落事故は、1985年(昭和60年)8月12日18時56分に、日本航空(JAL、正式名はJAPAN AIRLINES)123便、東京(羽田)発大阪(伊丹)行、ボーイング747SR-46(ジャンボジェット、機体記号JA8119)が、群馬県多野郡上野村の高天原山の尾根(御巣鷹の尾根)に墜落した事故である。(Wikipediaより) 岩上「日航機墜落事故ですよね。あの時、一番最初に現地にたどり着いたのは米軍だった、ということが言われていますよね」 前泊「はい。この普天間の沖国大にヘリが墜ちた時も、米軍が先にフェンスを乗り越えて来て……もう封鎖をしていますが、情報の全てがアメリカに掌握されました。『管制圏が握られている』ということは、やはり、その情報をアメリカが統括をしているというのが分かりますよね。  首都圏の周辺で、そういうことを握られ続けていることに、疑問を感じないことに疑問を感じますよね」 岩上「そうですよね。それは、この問題に繋がってくると思うのですが。つまり、先程、米軍の基地が4,999あると。米国内が圧倒的に多いのですが、それでも世界中に米軍基地が置かれているわけですよね。  ヨーロッパにも、第二次大戦の時に、ドイツ、イタリアが敗北し、そして米軍が駐留し、NATOが作られ、今も駐留をし続けています。  しかし、こういう米軍基地ネットワークの特異性は、日本と、他国ではどういう違いがあるのか。ドイツ、イタリアと何が違うのか。  先程、韓国との違いが出ました。韓国は、ピープルパワーによって自分たちの権利を少しずつ取り戻しつつあると。フィリピンも米軍基地が撤退しました」 前泊「はい。追いだしちゃいました」 岩上「追い出したんですよね。これすごいことですよね。どうしてフィリピンは追い出せたのか」 前泊「イタリアも、米軍の訓練に対してはイタリア軍の許可をもらえと。これは、実は同じように使われて、演習を許していたのですが、訓練中にゴンドラのロープを切ってしまったんですね。(※注)そして、死亡事故が起こりました。『なんだ、これは』ということで、国民が怒ったんです。 (※注)チェルミス・ロープウェイ切断事件とは、1998年2月3日にイタリアのチェルミス山で発生したアメリカ海兵隊航空機によるロープウェイのケーブル切断事件。トレントの北東40kmに位置しスキー・リゾート地として知られる山村カヴァレーゼが事件の舞台となった。ロープウェイのゴンドラに乗っていた20名全員が死亡した。 航空機のパイロットである海兵隊のリチャード・J・アシュビー大尉とその航法士ジョゼフ・シュワイツァー大尉は軍法会議にかけられた。過失致死の罪については無罪となったものの、機に搭載されていたビデオテープを破棄していたことから司法妨害および将校および紳士にあるまじき行為について有罪となり海兵隊を不名誉除隊となった。 (Wikipediaより)  そして、米軍に対して『訓練する時はちゃんと通報しろ』と。そして『イタリア軍にちゃんと許可をもらってから訓練をしろ』ということを言われて『訓練を許可もらってまでやるか』ということで、事実上、訓練が止まったんです」 岩上「なるほど」 前泊「それから、ドイツでは……『原状回復義務』というものが日本にはありませんが……基地を返還した後、環境汚染が見つかった場合には『アメリカが綺麗にしろ』と。彼らは浄化義務をアメリカに課しているんですね。  そういうものが、日本はありません。ですから、返還された後、沖縄の恩納通信所もそうですが、返還されてから、PCBとか、水銀とか、そういう有害物質が見つかれば、日本の税金でクリーンアップするんです」 岩上「おかしいですよね」 前泊「当然、アメリカは、アメリカ国内で軍が汚染したものが見つかった時には『10年間かけて軍がきれいにする』という軍の予算が投じられているんです。アメリカ国内でもしているのですから、日本国内もすれば良いのに『なぜ、それができないのか』ということがありますね。  それから、裁判権にしてもそうですが。なぜ、イラクでも要求ができるようなものが、日本は要求ができないのか」 岩上「どうしてなんですか?」 前泊「これは政治家の問題だと思います。認識の問題とか」 岩上「後は、政治家が出てきても……先程、民主党政権がそうであったように」 前泊「潰されてしまうわけですよね」 岩上「そして、検察が現れたりしますよね。司法権を握られているからなのかもしれません。『それじゃ、僕らは一体どうしたらいいの?』という結論に至るわけなのですが。  『じゃあ、岩上さん。そんなこと言うんだったら、どうしたらいいの?』とよく言われるのですが。『そう簡単にどうこうできる問題じゃないんですよ』と思います。でも、みんな『なんとかしたい』と思っているわけですね。どうしたら良いと思いますか?」 前泊「多分、この事実を、現実を知らないからだと思うんです。みんなが知ってしまえば、それはもうどうしようもないと。  例えば、イジメの問題がありますよね。『なぜ、虐めが起こるか』というと、虐められていることを知らないからですよね。 岩上「なるほど」 前泊「虐められている人がいくら訴えても、誰もそれは虐めではなく、戯れているぐらいにしか思っていない。でも、自殺をした時に『あ、虐めだったんだ』と初めて気がつく。こういうことにならないように、現実をしっかりとみんなが」 岩上「周知すること。知らせていくということですね」 前泊「そのことに対して、みんなが意識をするようになると、変わっていきますね。やはり、無知と、無関心が、一番この問題の解決を遅らせていると思います」 岩上「その無知、無関心の、一つの理由が、日本中はかつて占領されていた……『かつて』と言いますか、今もそうなのですが……  でも、沖縄にしわ寄せをすることで、本土の人間、本州、九州、北海道の人間たちは、沖縄に集約されて、沖縄の問題になってしまったと……先程も言いましたが、そこで、言ってみれば分断されてしまった」 前泊「そうですね」 岩上「これも、非常に巧妙なやり方だったと思います。また、そういうことに、日本側が同意をしてしまった。  先程、昭和天皇の役割というお話がありました。昭和天皇を含めて、戦後の為政者や、権力者というのは、これがこんなふうに定着化してしまい、制度化してしまう役割を果たしたのでしょうか?」 前泊「おそらく、この間、何人かが、その問題に対して矛盾を感じていたと思います。鳩山さんも感じて変えようとした。ところが、それをやろうとしたら潰されてしまった。田中角栄さんも、同じようにやられたかもしれない。  それから、もう一人。例えば、私の仲良しでもあるのですが、防衛省担当時代から一緒だった、守屋(武昌)(※)さん。 (※)守屋 武昌(1944年9月23日 – )は、日本の元防衛官僚である。4年間に渡って防衛事務次官を務め、普天間基地移設問題の解決に尽力してきたが、その一方で在任中の収賄などによって有罪判決を受けた。(Wikipediaより)  結局『F15も含めて多すぎる』、『使えないものを買わされすぎたよ』と。そういうものを『差値で買わされるのが嫌だから、直接買い付けにいく』ということになったら、商社との問題でやられました」 岩上「『防衛省の天皇』というようなことを言われましたよね」 前泊「消えていってしまいました。彼は、別に、アメリカとの関係を悪化させようとした人ではないんですよ。アメリカが大好きな人なのですが。  それでも、こういうふうに潰されていってしまうのは何なのか、ということですよね。そのことに対して『ものを言えば潰される』ということがあると、もう誰も何も言えなくなってしまいますよね。  『日本という国が主権を本当に取り戻しているのか』ということは、地位協定を見れば見るほど、『主権はどうもまだ取り戻していないんじゃないか』と。  あるいは、もっと言えば『やはり属国や植民地になっている』というふうに、哲学者が冷徹に分析をして、高橋さんなどはそういう指摘をしていますけれども」 岩上「高橋哲哉さんですね」 前泊「そういうことを言われて調べてみると『そういう目で見た方が良いのかな?』というぐらいあるんですね。  守屋さんが、一度『日本版のCIAを作りたい』という話をしたことがあって『情報が、全部アメリカ経由というのはおかしい』と。日本が独自に駐在武官も含めて……『外務省の大使館がたくさんあるので、そこから直接情報を取って国際情勢について分析が出来るようになりたい』ということを彼は進めていたんですね。これも、多分『目に余る』ということになったのかもしれませんが。  彼が、予備調査で行なった資料があって、それを見ていた時に、鉛筆書きで書いてあったのが、中国の調査資料を見ていくと、そこに『日本の宗主国は、なぜ中国からアメリカに変わったのか?』と書いてあったんですよ。  だから『え?』と思ったんですね。『宗主国が中国から米国になぜ変わったのか?』と。『宗主国って何?』という……宗主国という意味が、よく分からなかったのですが。『防衛官僚が、宗主国という言葉を使うということはどういうことだろう』と。  つまり『日本は宗主国を持っている国だったのか』と、初めて気がついたんです」 岩上「気がついたと」 前泊「そして『宗主国ということは、つまり、属国?』と」 岩上「属国ですよね」 前泊「そういうことになりますよね。これが『防衛省の中の文書の中に出て来る』ということが衝撃でした」 岩上「認識だと」 前泊「ですから『日本人自身は、宗主国を持っていることに気がついていない』ということになってしまいますよね」 岩上「日本人自身、自らの歴史を振り返る時に……近代史もそうなのですが……『近代はなぜそういう時代だったのか』と説明するには、その前時代を知らないといけませんよね。  例えば、明治はどうやって生み出されたかというと、やはり徳川時代を振り返らなければいけませんし、常にこうやって振り返っていくと、古代まで振り返っていくことになるのですが。振り返ると、いつも独立していたことになっている歴史ですよね。  そして、日本という国は、常に……圧倒的に東アジアにおいて、中国……その時代、時代で呼び名は変わりますが、中国が圧倒的な力を持ち、文明の感化力も持ち、軍事的な力も持ち、そして、冊封体制(※)がある。 (※)冊封体制:中国,歴代王朝が東アジア諸国の国際秩序を維持するために用いた対外政策。中国の皇帝が朝貢をしてきた周辺諸国の君主に官号・爵位などを与えて君臣関係を結んで彼らにその統治を認める(冊封)一方,宗主国対藩属国という従属的関係におくことをさす。(Kotobanku.jp 百科事典マイペディアの解説より)  その冊封体制の中から……朝鮮はその冊封体制に組み込まれていましたが……日本はそこから免れていた。『独立していた誇り高い国であった』というストーリーになっています。  それは間違いないことなのかもしれませんが。近代においては、それが強調され過ぎて、常に『独立している国だ』というイメージがあり、先程言われた『いつ、日本の宗主国が中国から米国に代わったんだろうか』ということは、独立していた時代がないという話になりますよねs」 前泊「そうなんですよ」 岩上「これは、どういう認識で生み出されてきたのかと不思議に思うのですが」 前泊「これは、防衛省の関係者のみなさんのヒアリングが必要なのですが。この地位協定そのものの生い立ちを見ていった時に、他国の軍隊が、その一つの主権国家の中に長期間駐留をするということは、第二次世界大戦以前はなかったことなんです」 岩上「なかった」 前泊「ところが、それが一般化したのは『何か』ということを、地位協定の考え方の中に、外務省が書いているんです。  それは、いわゆる同盟国の軍隊が、同盟関係において長期駐留するようになった、という説明をしているのですが。それ以前に『外国軍隊があるということは、植民地か属国にしかない』ということを書いているんです。  ですから『同盟関係によって誤摩化されるほど、日本国民はそれほど馬鹿じゃないよ』という話なのですが。  他国の軍隊が、これだけ長期間、しかも多数駐留をして、そして、それが国内法を全く無視して自由に動き回ることが出来る。それは『同盟国だから許される』という話ではないのではないのかと思います」 岩上「許される話ではないと思います。お聞きしてない項目が、もう一つあります。『原発再稼働との関係は?』これが、まだお話の中に出てきていません」 前泊「はい。この原発の問題と」 岩上「このことに関心がある人が多いのですが『どうして、これが地位協定と関係あるんだ』と」 前泊「実は、日本は核査察(※)を毎年受けているんです」 (※)核査察:核物質や核関連施設などが軍事目的に利用されないように監視するために国際原子力機関(IAEA)が行う保障措置のひとつで,特定査察,通常査察,特別査察があり,核拡散防止条約加盟国がIAEAと個々に協定を結んで実施される。 (Kotobanku.jp 百科事典マイペディアの解説より)   岩上「IAEAからですよね」 前泊「いえ、アメリカからです」 岩上「アメリカから、毎年、核査察を受けているんですか?」 前泊「つまり、ウランや原発がありますよね。『原発がある』ということは、核兵器を開発する力を持っているということですから」 岩上「プルトニウムですね」 前泊「プルトニウムにしても、ウランにしても、いくら輸入をして、どのぐらい使ったのかを、きちんと報告させられているんです。これは、実はケビン・メア氏がストレートに言ったのですが『それは、我々はいつもちゃんとチェックしています』と。『日本が悪さをしないように』という話ですよね」 岩上「ケビン・メア」 前泊「はい」 岩上「沖縄のことを侮辱した人ですよね。先頃、尖閣に関して、文藝春秋で寄稿をして『日本は中国に遠慮することはない』、『もっと、どんどんおやりなさい』と。『F35を買いましょう』、『イージス艦を買いましょう』と書いた人ですね」 前泊「彼は非常に正直な人で、ああいう人はむしろ大事にしたほうが良いんです。アメリカの本音を知ることが出来ますから」 岩上「なるほど」 前泊「彼は、非常にストレートに言ってくれますから。例えば、原発の時もそうなのですが。福島の原発の問題の……彼は日本部長を解任された後……担当になるんですよね。むしろ、重責を担う仕事に就いたんです。普通、更迭というのは外されることなのですが、彼は、更迭をされて、より上のポストに就いたんです」 岩上「出世したんですよね」 前泊「原発の事故が起こった時のことが、彼の『決断できない日本』という本の中に書いてあったのですが。菅(直人)さんが、あの事故が起こった時に『真水をよこせ』と言ってきたと。ケビン・メア氏はその時に『何を言っているんだ』と。『そばに海水はいくらでもあるのに、なぜそれを使わないのか』と。『とにかく冷やさなきゃいけないのに、なぜ真水を要求するか』と」 岩上「あの時、報道は『冷却剤』と言っていましたけれども」 前泊「『この期に及んでも、日本政府は国民の命よりも原発が大事なのか』と、彼は不思議に思ったと書いています。  そういうことについて、アメリカの方がむしろ良く知っていたんですね。それなのに、そのことに対して『日本の総理大臣は認識が甘かった』ということを、彼は指摘しています。  『原発問題とアメリカとの関係』というのは、彼らが原料を供給しているから、原発が動いているわけです。  そのことで、結局『日本にもたらすメリットがどこにあるのか』というのをしっかりと」 岩上「どこにあるのでしょうか?そもそも、原発は、なぜ導入されたのか。これは、表向きには、エネルギー問題として説明がされていますが」 前泊「止めてしまえば、日本のエネルギーはそこで止まることになりますよね。つまり、アメリカの手のひらで」 岩上「『エネルギー依存させておきたい』」 前泊「『エネルギー依存をさせておきたい』ということですね。結局、支配がそこでも及んできますよね」 岩上「なるほど。依存すればするほど」 前泊「それから、もう一つ。例えば、原発を持っている国というのは、ある意味で核兵器を使わなくても、通常兵器で攻撃してしまえば、終わりですよね」 岩上「それですね。これは、すごく重要なことですよね。54基の原発を、海岸沿いに並べてしまえばもう終わりですよね。  今の安倍政権……安倍さんだけではありませんが、石原さんなど、原発を維持すると片方で言いながら、片方で隣国との間で緊張を高めています。矛盾していますよね」 前泊「危ないですよね」 岩上「身体に自爆装置をつけながら、喧嘩を売りにいっているような話ですよね。『先に、原発を隠せよ』と言いたいですね。原発を続けるのならば、山の中に隠す。そして、核兵器を持ちたいのならば、原発は止めて、実験炉だけを攻撃されないようなところに置いて、そして核兵器を持つ。そして、これは核武装をするためだと言うのであれば、理屈は通るのですが、核武装をするのに、54基の原発なんて要りませんよね。  全く矛盾した理屈を言っていますよね。しかし、今、はっきりと前泊さんがおっしゃられたのは『あれは、日本が弱点を晒し続けるために必要なんだ』と」 前泊「本当にこの問題で、それを逆に隠そうとしている人は『これがなくなると、核開発ができなくなる』と言った人がいましたよね。今の政権の中枢にいる方ですが。そういうことを言って憚らない、とはどういうことだろうと思いますよね」 岩上「ポテンシャル(潜在能力)を」 前泊「非核三原則はどうなっているのか?と思いますよね」 岩上「『ポテンシャルを維持するんだ』というふうに良く言っています。『ポテンシャルは抑止力だ』と言うのですが『ポテンシャルは抑止力になるのか?』ということですよね。  潜在力を持っているということと、持つということの間には、途方もない乖離があります。途方もないジャンプをしなければいけないわけですし、それでは何の抑止力にもならないだろうと、普通は考えますよね」 前泊「この本の中で書いたのですが。伊方原発の近くで、米軍のヘリが墜落した事故があったんです。(※注)その事故で『これはどういうこと?』ということがあるんですよね。そこは飛んではいけないはずなのに、なぜ飛んでいるのかと」 (※注)1988年6月25日午前10時10分。視界20メートルの濃霧に包まれた佐田岬半島の北側斜面に、普天間基地(沖縄県宜野湾市)所属のCH53Dヘリが激突しました。そこは伊方原発(愛媛県伊方町)のほぼ真上でした。 [伊方原発周辺の米軍機事故] 79年12月 保内町(現・伊方町) 保内中学校庭にAH1Jヘリ(普天間)2機不時着 81年3月 保内町  保内中学校庭にAH1J(同)不時着。3日間駐機 84年4月 三崎町(現・伊方町) AH1J(同)が建設会社敷地に不時着 88年6月 CH53Dヘリ(同)が伊方原発至近に墜落。7人死亡 89年6月 野村町(現・西予市) FA18戦闘攻撃機(岩国)が野村ダムに墜落 00年4月 三崎町ムーンビーチ AH1Wヘリ(普天間)が不時着。僚機2機も着陸 08年7月 MC130特殊作戦機(嘉手納)が八幡浜市などで超低空CH 1E年3月 松山空港にCH53Eヘリ(普天間)4機が緊急着陸 (しんぶん赤旗 伊方原発上空飛ぶ危険 オスプレイ 普天間~岩国間で訓練 88年 間近に米ヘリ墜落 2012年7月22日(日)) 岩上「先程のオスプレイの問題と、この原発の問題が結びつくような事故ですよね」 前泊「そうなんですよ。これ、実は日本の中にある米軍基地というのは、日頃から訓練をしているわけですが『その訓練のターゲットは何か?』ということです。ターゲットがないのに、いたずらに飛び回っているわけではありませんからね」 岩上「これは……アフガニスタンは山岳地帯です。そして、アフガニスタンでずっと米軍は作戦行動を取っています。『だから、その山岳地帯を低空飛行するために必要なんだ』というふうに言われることもあります。これは、相当、専門的に知っている方の説明なのですが。でも『そうではない』と、前泊さんは考えていらっしゃるということですか?」 前泊「はい。『原発の近くでヘリが墜ちた』ということは……日常的に、四国の周辺や、岩国から飛んだものは、原子力施設を、当然、ターゲットにして飛び回って訓練をしていると思います。  一度、私が運輸省を担当している時に、アメリカ海軍が房総沖で演習をしている時に、間違って……間違ってと言いますか、第1管区の巡視船が攻撃されたんです」 岩上「そうなんですか?」 前泊「それで大騒ぎになりました。至近弾を受けたので大騒ぎになったんです。その時の運輸大臣が、石原慎太郎さんだったのですが。海上保安庁は、運輸大臣の管轄下にあるので大騒ぎになったんです。  その時に、石原さんが『なんだこれは、在日米軍は番犬だと思っていたら狂犬だ』という発言をして、物議を醸したのですが。調べてみたら、結局、アメリカ海軍が訓練中に、目標がなかったので、遠くに見えた巡視船をめがけて撃ったら、思いのほか遠くに飛んで至近弾になったということになったんですよ。  つまり、日常的にそういう『ターゲットは何か』と。日本の中で低空飛行訓練を許すということは『低空飛行の訓練のターゲットは何か』ということが分からないといけないんです。  例えば、この本の中で、こういう……これは沖縄でやられていたものですが。ベトナム村というのが作られていました。そして、この中で動いているのは沖縄の住民なんです。沖縄の住民がベトコンの役割をさせられているんですね。そして、襲撃訓練をしていたんです。  ですから、実は、日本の中で低空飛行訓練や、その演習をしているということは、まさにそのターゲットが日本の施設であったり、日本の人であったり、日本の町であったり、日本の原子力施設であったりということになりますよね。  そういうことをされていることに気がついていないんですよ。だから、事故が起こった時に『なんでこんなところで事故が起きているの?』となるんです」 岩上「日本が、本気で独立しようという時に……日本が、自主独立、そして重武装をして独立するということになった時に『二度と日本を立ち上がらせない。軍事国家にさせない』という思いから、占領をずっと続けてきたと思います。『瓶のふた論』(※注)などということも言われました」 (※注)日本抑止論 :1990年(平成2年)3月、在沖縄米海兵隊司令官ヘンリー・スタックポール(Henry C. Stac kpole, III)少 http://ja.wikipedia.org/wiki/日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約将は 「米軍が日本から撤退すれば、 すでに強力な軍事力を日本はさらに増強するだろう。 我々は 『瓶のふた』 のようなものだ」 と発言し、日本を抑止する必要があるとの見解を示した。(Wikipediaより) 前泊「スタックポールさんが、そういう発言をしていましたね」 岩上「『米軍基地は、日本を守るためではなく、日本を封じ込めるためにそもそもあるんだ』ということですよね」 前泊「そういう指摘もありますよね」 岩上「今のお話ですと、万が一、日本が立ち上がろうという時には『従前に訓練を積み、従前に情報を持ち、米軍基地が追い出されるようなことがあっても、もし日本が敵になった時には、いつでも叩けるという状態に置いておく』という話に繋がってくると思うのですが」 前泊「そういうことを、想起せざるを得ない状況に置かれているんですよね。ですから、もう少し、首都の防衛ということを言うのであれば、外国軍隊がそばにいるということを……これは日米同盟だからと言われていますが……本当に同盟関係は、いつ破棄されるかも分かりませんし、そういう軍事的な安全保障だけでは、やはり、今の時代にそぐわないと思うんですよね。  『アメリカは、色んな国と同盟関係を結んでいるのに、なぜ日本だけは日米同盟だけしか許されないの?』ということもありますよね。韓国とも、中国とも、ロシアとも、それこそイギリスとも、フランスとも、ドイツとも同盟関係を結んで、その同盟は軍事同盟だけではなくて、経済安保でもありますよね。  そういう経済的なもので、しっかりと結び付きを強める。文化的なものでやる。人間の交流をする。それから、外交官同士がしっかりと情報交換をして、意思の疎通をしっかり果たしておく。そういうことで、安全というのは守られるはずなんですよ。  ところが、なぜか日本は『日米同盟があれば大丈夫』というので、多国間安保を議論した民主党などは、すぐに潰れてしまいましたよね」 岩上「はい。この多国間安保……別の言い方をしますと、多極的な外交ということになると思います。先例としては、90年代の頭に細川政権、非自民政権ができます。この時に、本気で論議がされたわけですよね。その時には、防衛庁も絡んでペーパーも作ったりしていました。  ところが、あっさりと潰されました。これを、今のような見方で見ると『アメリカにとって非常に不都合である』と。アメリカに一極集中というよりも、一極従属の日本の形、それが日本の国の形、戦後の日本の国の形というのであれば、これが国体なのだろうと思います。『戦後の国体なのだ』と。  『この国体は、不可侵で、憲法よりも上位にあって、天皇よりも上位にあるものだから、この安保に忠誠を誓い続けないといけない』と思うような人たちが、あまりにもこの国の支配層の中にたくさんいるのではないか。  あるいは『そうしろよ』と命じてくるアメリカがいて、それに歯向かうとか、そこからなんとか抵抗して身をもがいて、身を捩りながらでも抜けだそうとすることを試みるのを諦めている人たちが、あまりにも多すぎるのではないのかと思うのですが」 前泊「私は、アメリカという国は、そんなに無理難題を言ってくる国ではないと思っています」 岩上「無理難題をいつも言われている沖縄の人から、そう言われると不思議なのですが」 前泊「是々非々で、きちんと議論をしていかなければいけないのに、それをしない姿勢があると思うんです。沖縄が無理難題を押し付けられているのは……つまり、沖縄にいるのはアメリカ人よりも軍人がいるんです。外交官もいなければ、それこそ、直接、権限を持っている人たちはいないわけですから」 岩上「確かに、沖縄にいるのは文民ではなく軍人ですよね」 前泊「交渉をする人たちが、きちんとした立場で交渉していけば変わっていきます。韓国だって権限を取り戻しました。ドイツも、イタリアも、それこそイラクも追い出したりして、フィリピンは基地をなくしたりもしています。必要であれば、戻ってきたりもするし、交渉したりもする。  そういう、やり取りがあって、初めて、国際関係……外交と言えるのですが、なぜ日本はそういうことをしないのか、というのが不思議なんですよね。  しっかりと言えば、アメリカにしても『一つのパートナーとして大事にしたい』と思えば、聞くところは聞くし、譲れないのは譲れないと。  それは、ドンパチ交渉もしながら、お互いがそういう交渉をし合いながら歩み寄っていくというのが出てくると思うのですが。最初からそれをやらないというのは、おかしいと思います」 岩上「日本の中で『権力を握ろう』と思う人間は、アメリカに出来るだけ、より媚を売った方が良いという、そういう日本国内の権力レースみたいなものに、左右されているのではないかという気がしないわけではなのですが」 前泊「そうですね。そういうことがあってはいけないと思いますね。まず、国民に対して嘘をつかない。事実をしっかりと伝えて『こういう形になったけれども、それでも良いか』ということを聞いて『駄目だ』というのであれば、それをどうやって直していくかということですよね。  地位協定の問題で言えば『低空飛行訓練を日本中でやらせてしまう』と。『アメリカでもできないことをなぜ許すの?』と。アメリカに対して『やはり止めてくれ』と。『ここは、やはり使わないでくれ』、『もう少し、安全なところで訓練してくれ』、『人のいない無人島でやってくれ』と。  あるいは『アメリカ本国には砂漠もあるのだから、そこでしてくれ』と。『日常的には、人のいないところでやってくれ』ということを言えば、聞くと思うんですよ。  ところが、それを言わないんですね。『なぜ言えないのか』ということが残念なのですが」 岩上「なぜ言えないのかというと、もう何度も、同じ問いの周りを回っているようですが。結局のところは、そういう人たちは自分が得をしたいのだと思います。  例えば、A級戦犯でありながら、なぜか救命がされて、世に出た後、逆に、アメリカの支援を得て、資金も得て、権力のトップに登りつめた人もいるわけです。現在の総理のおじいさん、岸(信介)さんが『CIAの援助を受けていた』ということは、今や明らかなわけですよね」 前泊「自民党に対しては、お金を出していたことも分かっています。『そういう歴史をいつまで続けるのか』というのはありますね。  日本が、この国が変わっていくとしたら、本当に主権をしっかりと意識して、主権在民というのであれば、国民の権利や、財産権や、生命を脅かすことのないように、日本の政治家としては、きっちりそれを主張して、外務省は、日本の外務省なのですから、アメリカの代弁をせずに、日本国民の命をまず第一に考えて行動する、外交を行なうということをしっかりやってほしいな、と思いますね」 岩上「本当にそうではない国になってしまっている、という現状から出発しないといけませんよね。大変だと思いますが」 前泊「『その現実を、まず直視するところから始めて欲しい』と思います」 岩上「直視するためにも、この日米地位協定入門を、是非、お読み頂きたいと思います。  最後に一つだけ。先程、スタートする前にスケッチブックに書いた、本日の議論のポイントがありました。しかし、一つだけ書き忘れたことがあります。それは、TPPのことなのですが、これは重要だと思います」 前泊「TPPですね」 岩上「先程『どうして原発が必要なのか』という問いに対して『それは、エネルギーを日本がアメリカに依存する状態を続けるためだ』と。つまり『原発を維持稼働し続けるということは、技術にしろ、燃料にしろ、アメリカからの支配を受け続け、そして依存し続ける』と。『そのために、日本がエネルギー関係で自立をしたら駄目なんだ』と。  日本がエネルギー関係で自立をしてしまえば、日本は勝手なことをやりだし、自由な日本になってしまう、それは困る、だから、アメリカに隷属をさせ続けるためにと。 まさに、これは色んな背景がよくわかる話だと思います。  そして、TPPの問題。それから、ジャパンハンドラーと呼ばれるような、アーミテージのような人たち」 前泊「マイケル・グリーンさんとか、ケビン・メアさんとか、ジョセフ・ナイさんとか」 岩上「昨年の8月15日にアーミテージがレポートを出しています。(※注)その中で『原発を再稼働しろ』、『原発続けろ』と書いています」 (※注)第3次アーミテージ・ナイレポート“The U.S-Japan Alliance ANCHORING STABILITY IN ASIA”のこと。 2013/02/03 【IWJブログ記事】「第3次アーミテージレポート」全文翻訳 前泊「そうですよね。『集団的自衛権も行使しろ』と」 岩上「それから『憲法改正し、集団的自衛権を』ということも言っています」 前泊「武器輸出三原則も、そうですよね」 岩上「それと同時に『中東の石油依存を出来るだけ低減し、温暖化が進んでいくのだから、日本は国際公約したことを守るように』と。つまり、温暖化の国際公約を、一つのフックとして、中東の石油依存を低下させ、そのかわりに『アメリカのシェールガスに依存せよ』と」 前泊「今日の新聞に大きく出ていたのはそれですよね」 岩上「『エネルギー同盟を結べよ』、『CEESAというエネルギー同盟を結べよ』ということですよね」 前泊「今日の大きなニュースがそれですね」 岩上「開発権を握って入っていても、アメリカの役所が止めたら駄目だと。だから『TPPだけではなく、FTAを結べ』と」 前泊「自由貿易協定ですね」 岩上「そのために『20兆払え』とも言っているんですよね『10年で20兆』と。呆れてしまいますよね」 前泊「それは、このTPPそのものが、環太平洋経済協定ですが。環太平洋の『環はなんだろう』と思いますよね。つまり、本来、東アジアの貿易協定を結ぶ動きをしていたものを、環太平洋ということで、太平洋の反対側まで含めて、アメリカがアジアにコミットさせてきた、ということがありますよね。  なぜ、そこまでアメリカがこだわるかというと、もう発展の次の可能性は東アジアしかないということが分かっているので、環太平洋にして、アジアにコミットしてきているんですよね。  その中に、日本が取り込まれてしまうということがあるのですが。やはり、アジア外交をもう少し丁寧にやるべきだと思いますね」 岩上「怖いのは、この原発再稼働というようなことだけではなく、また、エネルギーだけではなく、アーミテージレポートなどを読むと『TPPに入ることによって、農業はちょっと困るだろう』と。これは、ちょっとどころではありません、壊滅します。『そしたら、食糧は北米に依存すれば良いじゃないか』と書いてあるんです。  そしなれば、食糧も自給ができなくなります。そして、食糧を握られる国になる。そして『エネルギーも、軍事も、食糧も米国に依存しろよ』という、もう大変なことになってしまうと思のですが。どうしたら良いのでしょうか?」 前泊「安全保障というのは、バランスを取って、しっかりとセーフティネットを張っておくことが大事ですよね。一つの国に依存し過ぎるというのは、やはり危険だというのがありますよね。『喧嘩をした時にはどうするのか』ということがありますから。  中国と喧嘩した時に、日本中で大騒ぎしたのは『中国以外の国も大事でしょう』と。『インドネシアも大事にしよう』、『インドも大事にしよう』。あるいは『東南アジアを大事にしよう』という動きが、ようやく見直されてきましたけれども。  そういう動きが出ると、中国もあまり無理で強行な姿勢を取らなくなりますよね。同じように、前の反日デモの時もそうでしたが、レアアースの問題の時も『高値で売る』ということがありましたよね。  ちょっと虐めのような対応をした時に、世界中が怒りましたよね。『そんなこと言うなら』と。レアアースについても『じゃあ、レアアースを使わない開発をしよう』と。そういうことで動いたら、レアアースの価格も下がってきたのですが。  そういう、別の集団をしっかり作っておく。心中をしないように、そういう対応をするということは、安全保障の関係では当たり前の話なのですが。その意識が、まだ十分ではないような気がします。アメリカ一国と、あまりにも密接すぎて、そこに依存しすぎてしまうと、喧嘩ができませんよね。  実は、シンガポールは水をジョホールバル(※注)というマレーシアから買っていたのですが、マレーシアが水の価格を上げてきたんです。それでも、依存をしていたので『しょうがない』と払っていたのですが。 (※注)ジョホール海峡(Selat Johor)は、マレー半島南端のマレーシア連邦ジョホール州ジョホールバルとシンガポール島との間の海峡であり、マレーシアとシンガポールの国境にもなっている。ジョホール水道とも言う。(Wikipediaより)  さすがに『そこまでやるか』と言った時に、インドネシアと海底送水管を引いて、インドネシアと取り引きを始めたら、マレーシアが価格を下げてきました。そういうことは、小国が生き残る、あるいは資源のない国が生き残っていく交渉のカードとしては、当たり前の話ですよね。  日本という国も、アメリカという国だけに依存してしまうと、アメリカの言うことを聞かなければいけないのですが、他の国とも、丁寧に付き合っていくようになると、アメリカもそう無理は言えなくなりますよね。そういうことが、当たり前の外交として、そして二国間関係の健全化というところでは、活きてくるのではないかと思います」 岩上「なるほど。安全保障の話から始まりましたから、安全保障で締めくくるとしますと、今の話で言いますと『次期戦闘機をF35ではなく、ユーロファイターも検討しよう』と。  あるいは『自国で開発も検討しよう』ということを言っていれば……あのF35の価格は、ものすごく高くて、かつ、欠陥機ですよね。防衛省は配備ができないんだそうです。ものすごく高いのに、馬鹿みたいな話ですよね」 前泊「オスプレイも買う、という話になっていますよね」 岩上「はい。しかも、防衛省『要らない』、『使いものにならない』と言っているのに、外務省が主導で『入れろ』という圧力をかけているんですよね。本当に『これはどういうことなんですか?』ということですよね」 前泊「この本の最後の締めで、ジャイアンとスネオ君の関係を少し書きました。いじめっ子のジャイアンが、のび太くんをいじめる。それに対して、スネオ君というのが横にくっついる。ジャイアンの言うことを聞いて、しょっちゅうそれに手を貸している。  この、スネオ君とジャイアンの関係が、日本とアメリカの関係によく似ているということを、本当に色んなところで聞くんです。『こういう自虐的なことを、どうして言うんだろう?』と思うのですが。そのスネオ君がどうすれば、ジャイアンから離れることができるのか。離れたら、スネオ君は、多分、自分も虐められると思っているから、そばにくっついているんだと思います」 岩上「なるほど。東アジアの中で、自分は孤立していると思っている。東アジアの中で、かつて、虐めして、今や立場が悪くなり、虐められると思い込んでいる。そうなると、このジャイアンにくっついて行かないといけない。  逆に言うと、アメリカはそれを刷り込みますよね。『お前は、一人ではやっていけない。友達が誰もいないんだから、お前は俺の庇護のもとにいないと駄目なんだよ』と。これは、ストックホルム症候群(※)に非常に近いと思うのですが」 (※)ストックホルム症候群: 誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象。ストックホルムシンドローム。 ◆1973年にストックホルムで起きた人質立てこもり事件で、人質が犯人に協力する行動を取ったことから付いた名称。(Kotobanku.jp デジタル大辞泉の解説より) 前泊「なるほど」 岩上「あるいは、DV男」 前泊「そうですね」 岩上「DV(ドメスティック・バイオレンス)男と共依存関係にある人。これは女性だけではないです。従属関係にあるような人の共依存。ある種、病んでいると思います。条件反射的にそう思うのであれば、もうその域に達しているのではないかと思います。  先程『自分の利益を追求するために、アメリカに媚びを売る』と言いましたが、そういう計算ができるうちは、まだ、ある意味、卑劣ですけれども頭が正常に動いていると思います。  しかし、条件反射で『アメリカの言うことを聞く以外に、他に道はないんだ』と思っているとしたら、それは病んでいると思います」 前泊「事実関係をきちんと積み上げることで、真実に近づいていくことがあると思います。そういう意味では、日米関係を見る上で、一つの試金石になるというのがこの地位協定だと思います。  この日米地位協定を見ることで『日本とアメリカの関係性は、実際はどうなのか』ということを見ることになると思うんです。こういう不平等条約、あるいは、不平等協定を持ちながら『対等だ』と思っている。あるいは『パートナーだ』と思っているというのはおかしいという、そのことを言っているんですね。  そして『対等だ』というからには、対等な関係性をこの地位協定の中でもしっかりと検証していく。  それから、日本にアメリカの基地はありますが、アメリカに日本の基地はないんですよね。これは、片務性と言われるのですが。『それじゃあ、双務性は可能なのか』ということ含めて『アメリカはそれを許すのか』ということを言うと、それはないと思うんです。  ですから、軍事的な面での安全保障という側面で言うと、どうしても片務性というふうになってしまうのですが、経済安保という側面もあります。それから、人間の安全保障という問題からすると、日米関係というのは、もちろん大事にしなければいけない関係性があります。  これは経済の依存度から言っても、日本は中国に次いでアメリカを主要な取引先にしていますから、その両国を大事にしなければいけないということがあります。  これは『どちらを取るのか』という選択を迫られないように、注意をしなければいけないのですが、それがなぜか『中国とアメリカ、どっちを取るんだ』というような選択をさせられたりしていますよね」 岩上「どうしてその時に、中国にもアメリカにも従属しない第三の道というよりは、第一の道なのですが……『日本は独立します』そして『両方ともと仲良くします』という道がないのでしょうか。これはおかしな話ですよね」 前泊「そうですよね。選択でよく使うのですが。1万円と、5千円と、千円が道に落ちていたら、どれを拾いますか?と聞くと。岩上さんは、どれを拾いますか?」 岩上「1万円と、5千円と、千円?やはり、1万円ではないでしょうか?」 前泊「そうですよね?そういうふうに、みんな思ってしまうんです。それは、私の聞き方がはめているからですね。実際、1万円と、5千円と、千円が落ちていたら、1万円だけ拾う人はいませんよね」 岩上「(笑)それは三つとも」 前泊「拾いますよね」 岩上「なるほど(笑)」 前泊「でも、私は『どれを取るのか?』と聞いたので、みんな『1万円』と答えてしまう。現実と乖離をしているんです。こういう問いかけが『中国と、アメリカどっちを取りますか?』という質問と同じなんです」 岩上「質問で、そう設定されてしまっているんですね。答えの幅が決められていて、本当の解というものを、そこから除外するような問いかけ方になってしまっている」 前泊「これが、日本のメディアの中で行われてしまっていることなんです」 岩上「騙されました。1万円と答えてしまいました (笑)」 前泊「現実には『5千円と、千円を置いていくのか?』という話ですよね。聞き方でそう聞いてしまう。  例えば、普天間問題にしても『普天間移設問題』と報道するんです。しかし、本来は普天間撤去問題だったんですよね。それが『普天間返還問題』になり、いつの間にか『移設問題』になって『移設しないと普天間は返還されないような』という、その刷り込みが日常的にメディアでやられるんです。ですから、私が最初に『普天間問題』と言っているのは、そういうことを全部合わせて総称しているんですね。  それから『辺野古に移設をする』という話になっていますが、辺野古の人たちは『辺野古新基地建設問題』と言っています。普天間とは関係なく、あそこに基地を作る計画がありましたから。全く別の問題として、議論をしているんですね。だから、反対をしている。  そういうことで、報道する側が特定の意図を持って、選択の幅を狭めている。そして『中国か、アメリカか』という選択をさせることによって『両方』という答えを外してしまう」 岩上「なるほど。これはしかし、高度なリテラシーが必要とされますね。元新聞記者で、論説委員長まで行かれた、前泊さんだからこそ言えることで、こうした世論の誘導が、とても巧妙にやられているんですね。これに繰り返しやられることによって『あれ?本当はどうだったのかな?』ということで、本質が分かんなくなってしまう」 前泊「そうなんです。だから『抑止力』というのがあるかのように伝えられていますが、尖閣問題を見れば『本当はないんじゃないか?』という疑問が浮かびますよね。  そのことをしっかりと見据えないといけない。『在日米軍がまさに抑止力だ』、『沖縄に基地が必要だ』と言っていた、あの森本さんですら『あれは必ずしもそうじゃない』ということを、大臣を辞めたら言っていますよね。  それから『学べば学ぶほど、抑止力は必要だから沖縄に置いておくしかない』と言った、鳩山さんは、終わった後『抑止力というのは方便だった』というふうに言っていますよね。  つまり『結局、何が本当なのか』ということを、しっかりと見据える力。それは、事実をしっかりと認識して、そして地位協定の問題をまず読んでいくと『あ、これは日本という国は本当にそれが必要なのか』、『在日米軍は、本当に日本を守るためにあるのか』、『それとも、アメリカがアメリカを守るためにあるのか』という理屈を、しっかりと見抜いていく必要があると思うんです。  そういう理屈を、メディアによって作られているもの……あるいは、アメリカや、日本政府によって作られている概念みたいなものが『もしかしたら違うかもしれない』ということを、一度、疑ってみて、そして自分で確認をしたもの以外は信じない、というそういうスタンスが、日本の国民の中には必要だと思います」 岩上「分かりました。ありがとうございます。前泊さんの話は、いつも大変明晰で理解しやすいのですが。今回、前泊さんの話を聞いて、もう十分わかったような気になってしまわれると困りますので、みなさん、これを是非、読んで下さい。この本の中には、まだお話しされていないことがたくさん書かれています」 前泊「山ほどあります。是非、読んでみてください」 岩上「実際、まだ前泊さんには、たくさんのストックがあると思いますので、お忙しいと思いますけど、また、近々お話をお伺いしたいと思います」 前泊「はい。是非、沖縄にも来て頂いて」 岩上「はい。行きます」 前泊「あるいは、福島や、それから岩国。あるいは、佐世保や、横須賀、そして三沢も含めて、色々な基地を見ながら、また沖縄の現実だけではない、日本の現実をしっかりと見据える機会を作って頂ければと思います」 岩上「近々、岩国に行ってお話をさせて頂くのですが。岩国も、米軍再編で負担が増えていっていますよね」 前泊「オスプレイの時に言われたんです。これは、西山さんが言っていたのですが『日本人は既成事実に弱い』と。オスプレイに関しては、来る前は反対をずっと激しくやっていたのに、一度配備がされてしまうと、反対運動が消えてしまうんですよね。  西山さんが言っていたのは、60年安保の時に、あれだけ反対していたのに……70年安保の時に、アメリカが『強行しろ』と佐藤さんに言ったと。『強行しても大丈夫だ』、『60年安保で反対していた、中心は学生運動だった』と。  『その学生たちは、70年安保ではもう会社に入ってぬくぬくと生活をして、安保の問題になんか何の関心もない』と。『過ぎてしまって、既成事実になったら、日本人は受け入れるんだ』ということをアメリカに言われたと言うんですね。  既成事実化されてしまうと、反論が出来ない。極端に言えば、本当に言葉は悪いのですが、手篭めにされてしまったら、もう言うことを聞いてしまうような」 岩上「先程のDV男の例えと同じですよね。まさに、手篭めにされてしまったら『もう言うことを聞かなければいけない状態なんだ』と思い込んでしまっているんですね」 前泊「そういうことを、前例にしてはいけないですよね。やはり、是々非々で『違うことは違う』というふうに言い続けること。今、沖縄が、かたくなに反対を一生懸命していますけれども」 岩上「沖縄はタフですよね。これは、人事みたいな言い方で失礼なのですが、ものすごく沖縄の人はタフだなと思います」 前泊「現実なんですよ。これが配備をされて常駐をされる地域と、一時駐留するところの地域の違いがあるんですね。今、沖縄でお年寄りが中心になって反対運動を展開しています。  特に、牧師さんで80を過ぎている方なのですが。彼が『75歳以上の人たちが反対運動をやれ』と。『若い人がやると、例えば、警察に捕まる。あるいは、そういうイメージが出来てしまうと会社からもクビになるかもしれない』。  『そういうことを考えると反対ができなくなる』と。『でも、75歳以上なら、もう年金生活だし、この先、年金ももらえなくなるかもしれない。こんな国で長生きをしてもしょうがないだろう』と。『むしろ戦争をした責任。そして基地を置かされた責任。それは我々の世代にある』と。  『その世代が基地をきちんとなくして、戦争前の豊かな日本に、沖縄に戻して、そして人生を終えていく。そのために頑張ろう』ということを、お年寄りたちが言っているんです」 岩上「泣かせる話ですね。それと同じようなことを、孫崎さんが……今年70歳で、とてもお元気なのですが。皇居を毎日走って『人生で一番大事なことはマラソンをすることだ』とおっしゃっています。  その孫崎さんが、昨年の再稼働反対のデモが一番ピークに達している頃に、檄文のようなツイートを打っています。『お年寄りは規制してくる警察に立ち向かおうと。そして、みんなで逮捕されよう』と。『みんな逮捕されたら警察も忙しくて大変だ』と」 前泊「留置場が、いっぱいになってしまいますからね」 岩上「『いっぱいになってしまって、警察官も調書を取るのに大変だ。我々はどうせ先がないのだから、我々の世代はどんどん逮捕されるように頑張ろう』と。これは、70歳の人でなければものすごく無責任なことなのですが。多分、色々な思いを込めて書いていたのだと思います。そんなことを呼びかけていらっしゃいました」 前泊「基地のことで言えば、あのフェンスのゲートを止めてオスプレイの配備に反対をする、そのお年寄りたちが座り込みをしているのを、沖縄県警が排除していく。その姿をフェンスの内側から米兵たちが見ているんですね。  彼らがツイートしているのは『グランドファザー(祖父)やグランドマザー(祖母)にあたる人たちを、沖縄の孫にあたる世代が、一生懸命、この基地を守ろうとして動いている』と。『あまりにも哀れで見ていられない』ということを米兵たちが書いているんですね」 岩上「米兵がですか?」 前泊「それを見せられると『一体、誰のために、何のために日本人同士がこういう喧嘩をしているのか』。あるいは『いがみ合っているのか』そして『対立をさせられているのか』と思いますよね。  これは、砂川事件の時も同じように、座り込みをして反対をしているのを、米側に言われて機動隊を導入しましたよね。そして、ボコボコにして.……それを『木魚を叩いている音のようなものが響いた』という米兵の証言があります。  それは言ってみると、機動隊が日本の国民を殴っている。『何のために』というと、米軍基地を守るためにですよ」 岩上「それを米兵たちは……自分たちを守るために彼らが動いているということは分かっているのだけれども『哀れで見てられない』と。哀れだということは、だいぶ見下ろしているんですね」 前泊「そういうことを、なぜ日本人同士がやらなければいけないのか。外国の基地を置き続けるために、日本人が日本人を殴っている。この現実を、どう理解すれば良いのだろうと思いますね。  沖縄の警察もそうですが、メディアに対してカメラを止めることから始めるんです。そうしないと……お年寄りを排除している姿を報道されると、家に帰った時に、その子どもたちが見た時にどんな思いがすると思います? 『お父さん、今日なにしてきたの?』、『米軍基地を守るために反対している人たちをどけてきたんだよ』と。『へえ』と。でも、そのお年寄りを排除している姿を見た時に、子どもたちがどんな思いをするのかと。『これは一体何のために』と思いますよね。  『あのオスプレイというものが危ないから、反対運動をしているのに、その人たちをお父さんは誰のためにどけてきたの?』と言われた時に『日米安保のために、安保が守っているから、日本を守ってくれているアメリカを守るために私は動いてきたんだ』と、本当に言えるのかなと。  これが、戦後ずっと繰り返されてきていることなんですね。『米軍基地を守るために、戦い合っている日本人ってなんなのだろう?』ということを沖縄にいると思います」 岩上「なるほど。その現実がはっきりと見えるから……日米安保という、偽善や嘘が見えているから、沖縄の人はタフに抗い続けることができる。  これは、逆を言えば、何も考えずに、ゆっくりと茹でガエルにされていて、いずれは食われてしまうような状態にあるのに、そのことを未だに気が付かない多くの日本国民に、もう少し、この現実というもの認識してほしいですよね」 前泊「そうなんですよ」 岩上「『本当は配されてしまっているんだ』というこの現実を、やはり直視するべきだということですね」 前泊「生活空間の上で低空飛行訓練を、なぜ九州でやる必要があるのか。なぜ中国地方で、なぜ東北で、なぜ北海道でと。そういう疑問すら、なぜ抱かなくなってしまったのか。  外国軍隊の訓練が、日本中どこででもできるという事自体が……やはり、規制を加えていくのが当然だと思いますし、日本の国を守るために日本の国内法があるのに、国民を守るためにある法律が、どうして適用されないのか?  ドイツでも、イタリアでも当然のこととして、米軍に国内法が適用されています。その軍隊に対して、なぜ日本は国内法が適用できないのかという問題を、やはり誰かきちんと説明する必要があると思います。  そして、その答えをしっかり求めていかないといけないと思います」 岩上「そうですね。この話は、実は狭い話ではなて、本当は色々な話に関係する話だと思います。日本の歴史を振り返ってみて、本当に独立していたのだろうかとか。あるいは、時々おかしなことを日本はやってきた。  そのことは、もしかして、全く別の話ではなくて、例えば、朝鮮半島で言えば、侵略ということだと、秀吉がして、そして近代でもしている。それが、似たような構図になっていなかったのかとか、色々と考えるべきことがあると思います。  今日においても、また、もしかして、隣国と揉め事が起こっていますが、その背景に、別の第3の大きな帝国の思惑があり、それに唆されてやっていたのではないのかとか。  他の国際環境を視野に入れないで、ものごとを考えているのではないかとか。考えるべきことはたくさんあると思います」 前泊「そうですね」 岩上「しかし、それを論じていくと、夜が明けてしまいます。(笑)ですから、また、別の機会に、前泊さんには改めてお話を聞く機会を設けさせて頂けたらと思います」 前泊「はい」 岩上「今日は、本当にありがとうございました」 前泊「ありがとうございました」 岩上「みなさんには、本当に『日米地位協定入門』を読んで頂きたいと思います。どうもありがとうございました」 前泊「ありがとうございました」 【文字起こし・@sekilalazowie, 校正・Jade】

このページの先頭へ

<!--Amazon Publisher Studio↓--> <!--Amazon Publisher Studio↑--> <!--アクセス解析↓--> <!--アクセス解析↑-->