カダフィ大佐とアフリカの夢

引用元: 報道写真家から(2) 中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

武装蜂起からわずか1ヵ月、リビアの反乱勢力は中央銀行を設立した。
日本は東日本大震災の最中にあり、この声明はほとんど配信されていない。
海外でもとりたてて話題にはならなかった。

反乱軍の中央銀行

2月15日に蜂起したリビアの反乱勢力は3月5日に暫定国民評議会(NTC)を旗揚げした。それからほんの2週間後の3月19日、NTCは唐突に中央銀行の設立を発表した。

第2 : ベンガジを一時的本部とするベンガジ中央銀行をリビアの通貨政策を管轄する通貨当局として指定。また、リビア中央銀行総裁を任命。
Second: The Designation of the Central Bank of Benghazi as a monetary authority competent in monetary policies in Libya and appointment of a Governor to the Central Bank of Libya, with a temporary headquarters in Benghazi.
Meeting Outcomes of the Interim National Council held on 19 March 2011
http://www.ntclibya.org/english/meeting-on-19-march-2011/

このとき、反乱勢力はベンガジをめぐって政府軍と激しい攻防の最中だった。しかも、劣勢に立っていた。そんな時に、中央銀行の設立という場違いな発表を行なったのだ。
この不可解な発表に、一部の人々は敏感に反応した。

ここにひとつのギネスブック記録がある。ベンガジのリビア反乱軍は、国連安保理に資産を凍結されたムアマル・カダフィの支配下にある法人に替わる新しい国営石油会社を設立したと発表した。そして、中央銀行もだ!
Here's one for the Guinness Book of Records. The Libyan rebels in Benghazi said they have created a new national oil company to replace the corporation controlled by leader Muammar Qaddafi whose assets were frozen by the United Nations Security Council and have formed a central bank!

民衆蜂起からたったの数週間後に中央銀行が設立されるなど、かつて聞いたこともない。
I have never before heard of a central bank being created in just a matter of weeks out of a popular uprising.
Libyan Rebels Form Central Bank 2011.03.28
http://www.economicpolicyjournal.com/2011/03/libyan-rebels-form-central-bank.html

なんと有能な反乱軍だろうか。彼らは昼間は戦闘をしながら、夜には、いかなる外部の助けもなしに新中央銀行と新国営石油会社を設立してしまうのだ。……。しかし、戦争が終わってから中央銀行を作るのでは何か不都合があるのか?
What a skilled bunch of rebels - they can fight a war during the day and draw up a new central bank and a new national oil company at night without any outside help whatsoever. …… But isn't forming a central bank something that could be done after the civil war is over?
Libyan Rebels Have Already Established A New Central Bank Of Libya  2011.03.29
http://uruknet.info/?p=m76342&hd=&size=1&l=e

寄せ集めの反乱軍に、中央銀行を設立するなどという発想そのものがあったとは思えない。ましてや、高度な専門知識を必要とする中央銀行の運営を指示できるはずもない。中央銀行の設立は、反乱軍以外の誰かにとって必要だったことは明白だ。

この反乱がリビア民衆による自発的な蜂起などと信じている限り、リビア戦争の本質は理解できない。武装蜂起発生からNATO軍の空爆開始に至るまでの国際社会の一連の動きは、極めて不自然だった。その露骨なまでの強引さは、事前のスキームの存在を物語っている。リビアに対する計画的な侵略を、「民衆蜂起」と「人道危機」という二つの用語で薄く覆っただけなのだ。中身は透けて見えている。存在しない「大量破壊兵器」を理由にイラクが爆撃されたのとまったく同じだ。

反乱軍が、彼らにとってまったく無用の中央銀行を設立したことも、反乱軍が外部からの指令で動いていることを示している。

まだ政治権力をめぐる戦いの最中にあって、革命グループが中央銀行を設立するなどというのは前代未聞の出来事ではないだろうか?これは、私たちの時代にあって、中央銀行家というものが並外れた権力を持ちつつあることを示しているように思われる。
Is this the first time a revolutionary group has created a central bank while it is still in the midst of fighting the entrenched political power? It certainly seems to indicate how extraordinarily powerful central bankers have become in our era.
Libyan Rebels Form Their Own Central Bank 2011.03.28
http://www.cnbc.com/id/42308613

これは、寄せ集めの反乱軍の活動領域を越えており、そこには極めて洗練されたものの影響があることを物語っている。
This suggests we have a bit more than a rag tag bunch of rebels running around and that there are some pretty sophisticated influences.
Libyan Rebels Form Central Bank 2011.03.28
http://www.economicpolicyjournal.com/2011/03/libyan-rebels-form-central-bank.html

しかし、蜂起からまだほんの1ヵ月、なぜそこまで急いで反乱軍に新中央銀行を設立させる必要があったのだろうか。

リビア中央銀行

反乱軍に急いで中央銀行を設立させたということは、カダフィ政権のリビア中央銀行の活動をすぐに停止させたかったということにほかならない。リビア中央銀行は、国際社会にとってそんなに不都合な存在だったのだろうか。

リビア中央銀行は公式サイトで、自行を次のように紹介している。

リビア中央銀行(CBL)は100%国家所有であり、大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国の通貨当局として自立的な法人の地位を有している。CBL設立法は、中央銀行の使命を、リビアにおける通貨の安定を維持し、国家の包括的経済政策にしたがって経済の持続的な成長を促進するものと規定する。
The Central Bank of Libya (CBL) is 100% state ownership and represents the monetary authority in The Great Socialist People's Libyan Arab Jamahiriya and enjoys the status of autonomous corporate body.The law establishing the CBL stipulates that the objectives of the Central Bank shall be to maintain monetary stability in Libya, and to promote the sustained growth of the economy in accordance with the general economic policy of the state .
Central Bank Of Libya About Us
http://cbl.gov.ly/en/home/index.php?cid=94
※ 現在、リビア中央銀行の公式サイトは「再建中」になっているが、いまのところ上記URLなどから訪問できる。

リビア中央銀行は国家が所有し、その使命は、国家の政策に従って通貨の安定と経済成長に努めるという、ごくごく当たり前のことが書かれている。しかしそれゆえに、リビア中央銀行は極めて異質な中央銀行だったと言える。

世界の中央銀行の大半は、国家とは完全に一線を画している。今日、たいていの中央銀行は、国家からの法的な独立性を付与されている。この治外法権的な独立性を獲得するために、中央銀行は歴史的な努力を重ねてきた。その結果、いまや中央銀行の独立性に異議を唱える者はほとんどいない。それはもはや政治経済上の常識なのだ。

しかし、国家の通貨を発行し、管理する中央銀行が、国家の意向に従う義務がなく、密室の中で通貨政策を決定できるというのは、本来あるべき姿であるとは到底思えない。

国家の権限のおよばない治外法権のネットワークは、いまや地球を覆う巨大な勢力圏を形成している。この中央銀行の結束力は驚くほど強い。第二次世界大戦中、連合国と枢軸国の中央銀行家は、スイスのBIS(国際決済銀行)本部で、何の確執もなく協力して業務を行なっていた。国家間の紛争や戦争は中央銀行家の結束には何の影響も与えてこなかった。冷戦も彼らにとっては薄いカーテンにすぎなかった。

こうした固い結束力を誇る中央銀行の世界で、100%国家所有を謳い、国家の政策に忠実なリビア中央銀行は極めて不愉快な存在であったことは間違いない。リビア中央銀行はいわば異端者であり、決して心を許せないアウトローだった。

公式記録によれば、リビア政府は144トンの金を保有している。それは世界第24位の保有高だ。この金はリビアの資産であると同時に、アフリカの未来を担っていた。トリポリが反乱軍の手に落ちる前に、リビア中央銀行が、この金を国外に退避させることは十分考えられた。

反乱軍に新しい中央銀行を設立させたのは、一刻も早くリビア中央銀行からすべての権限を奪い、その金融機能を停止したかったからだろう。リビア中央銀行を非公式化すれば、周辺国の金融機関は、リビア中央銀行の金や金融資産の受け入れを断念するはずだ。そして、アフリカの未来は後退する。

アフリカ共通通貨構想

リビアはアフリカ諸国がうらやむ、豊かな安定した国だった。しかし、カダフィ大佐はリビア一国の繁栄を目指していたわけではない。彼の望みは、アフリカ大陸全体の平和と繁栄だ。

世界地図はいまやいくつかの大きな勢力圏へと変わりつつあり、そこでは人類のいかなる集団も現代では大きな勢力権の庇護を受けなければ存在できないし、大きな経済的勢力圏、すなわち統合された市場なくしては経済的進歩の可能性、つまり生産、輸出、輸入についての可能性はありません。
アフリカ連合(AU)臨時首脳会議でのカッザーフィー指導者の閉会演説(2004.2.28 シルテ)
p327 『リビアを知るための60章』 塩尻和子

私たちの国はどうかといえば、第三世界の、かつては被植民地であった発展途上国です。人口動態学的に単一の勢力圏で、単一の大きな消費市場、単一の大きな生産市場、単一の金融組織、単一の通貨をもって、強大な世界の巨人に対処しなければ、疲弊した国が巨人の時代であり勢力圏の時代である今日、いかにして生き延びられますか。
p326 同上

カダフィ大佐は、アフリカ大陸を、ヨーロッパやアメリカと対等につきあえる単一の統合された地域にしたいと考えていた。アフリカ諸国にもまったく異存はなかった。

2002年、アフリカの政治・経済的統合の実現と、紛争の予防解決に取り組むための組織、アフリカ連合(AU : アフリカ統一機構OAUを発展的に改組)が設立された。AUには、モロッコ以外の全アフリカ53の国・地域が参加している。

アフリカ大陸にとっての問題は明確だった。多くのアフリカ諸国は不安定な通貨と財政資金難に苦しんできた。その結果、欧米の金融資本の跋扈を許し、アフリカ大陸は重債務によってますます疲弊していった。こうした事態を打開するためには、アフリカが金融的に自立しなければならない。

AUは、「アフリカ中央銀行」、「アフリカ通貨基金」、「アフリカ投資銀行」の設立を決定している。これらの機関の役割は、それぞれ、アフリカ独自の共通通貨の発行、金融の安定的管理、そして、資金不足国への金融支援だ。まさに、アフリカの金融的自立を実現するのための機関だ。これが実現したとき、アフリカは欧米の金融資本の呪縛から開放される。

OAU時代から引き継がれる構想では、共通通貨は段階的に導入される。アフリカ大陸を五つの通貨ブロック(北部・東部・西部・中部・南部)に分け、それぞれの地域の統一通貨を発行し、最終的にアフリカ共通通貨に統合される。

北部ブロックのカダフィ大佐は大胆な通貨構想を持っていた。

カダフィは、ゴールド・ディナールの導入を計画していた-「それは、金から作られるアフリカの単一通貨で、富の真の共有である。」
Gaddafi was planning to introduce a gold dinar - "a single African currency made from gold, a true sharing of the wealth."

カダフィによると、その構想は、アフリカとイスラム国家が共同でこの新しい通貨を創造し、ドルや他の通貨に替えて、石油や他の資源の貿易に使用するというものだった。RTロシア・トゥデイはそれを、「世界の経済バランスを変革する構想」と呼んでいる。
The idea, according to Gaddafi, was that African and Muslim nations would join together to create this new currency and would use it to purchase oil and other resources in exclusion of the dollar and other currencies. RT calls it "an idea that would shift the economic balance of the world."
Gaddafi Planned Gold Dinar, Now Under Attack 2011.05.05
http://www.thedailybell.com/2228/Gaddafi-Planned-Gold-Dinar-Now-Under-Attack.html

「これは、秘密裏に計画しなければならない多くの物事のひとつだ。なぜなら、あなたがドルから他の何かに乗り換えようとしていると言うなり、あなたは標的にされるからだ」と民間団体平和省創設者のJames Thring博士は言う。「これに関する2つの会議が1986年と2000年にカダフィによって主催された。誰もがゴールド・ディナールに関心を持ち、アフリカのほとんどの国が前向きだった。」
"It's one of these things that you have to plan almost in secret, because as soon as you say you're going to change over from the dollar to something else, you're going to be targeted," says Ministry of Peace founder Dr James Thring. "There were two conferences on this, in 1986 and 2000, organized by Gaddafi. Everybody was interested, most countries in Africa were keen."
Saving the world economy from Gaddafi 2011.05.05
http://rt.com/news/economy-oil-gold-libya/

リビアの保有する144トンの金が、この通貨の原資として意味を持つはずだった。

そもそも、第二大戦後、世界が貿易通貨としてドルを受け入れたのは、金との交換性が保証されていたからだ。しかし、ドルは手品のように不換紙幣になってしまった。カダフィ大佐はゴールド・ディナールで貿易通貨を本来の姿に戻そうとしたと言える。しかしそのとき、ドルの地位が急落することは確実だ。

兌換通貨でなくとも、資源取引がドル以外の通貨で行われるとしたら、それだけでドルの優位性は脅かされる。それをはじめて実行しようとしたのがサダム・フセインだった。彼は石油取引をユーロに移行しようとした。その後の彼とイラクの運命はいまさら説明するまでもない。

たとえ一国であっても、ドルに対する挑戦は許されない。カダフィ大佐のゴールド・ディナールや、AUによる共通通貨構想は、ドルに対する宣戦布告に映ったかも知れない。豊富な資源を有するアフリカ大陸を舞台として巨利を得てきた欧米の金融資本にとっても同じだ。

OAU時代、おそらくその金融構想は欧米からまともには受け取られていなかっただろう。しかし、AUに引き継がれた構想は、決して非現実的な夢物語ではないことが明確になってきた。なぜなら、カダフィ政権は単独でも、潤沢なキャッシュフローをアフリカ大陸に注ぎ、支援してきたからだ。

OAU がAU への組織改変を遂げるなかでリビアはこれまでサハラ以南アフリカ諸国との関係改善を図っている。同国の炭化水素資源の輸出収益で得た豊富な外貨を梃子にして、サハラ以南アフリカ諸国に多額の援助をおこなってきた。ニジェールやマリではモスクが建設され、ウガンダ、トーゴ、ブルンジ、中央アフリカ、ガボンに対しては金融支援が行われた。

 さらにリビアは、最貧国に属する諸国(ギアナビサウ、リベリア、ニジェールなど) のOAU 分担金の肩代わりを行ったり、スーダン、ガボン、ジンバブエといった諸国の対外債務返済に向けた資金援助を行ってきた。
p192 「リビアの大量破壊兵器開発計画放棄、国際社会復帰後のエネルギー分野を中心とした経済再建の道筋と課題及びリビアの石油資源への国際石油企業の参入状況と見通しに関する調査」 2007 年3 月 経済産業省資源エネルギー庁
http://jime.ieej.or.jp/htm/extra/2007/06/25/itaku01.pdf

産油国リビアの潤沢な資金力とカダフィ大佐の強力な指導力が、いまやAUの金融自立構想の実現を保証した。AUの構想は、まさに世界の金融秩序を変革する潜在力を持ったマグマと言える。それが噴火したときの火柱を想像して、欧米の金融関係者は恐怖と怒りに駆られたかも知れない。彼らがそのあとに考えることはいつも同じだ。


カダフィ大佐やアフリカ諸国は、決して誰かを排除したいなどとは考えていない。彼らが望んだものは、支配や貧困、そして紛争とは無縁のアフリカ、ただそれだけだ。アフリカは、平和な大陸でありたいと常に望んできた。

21世紀は、アフリカ大陸の夢を実現できるだろうか。
リビア戦争やイラク戦争のような蛮行が今後も繰り返され、次の世紀にまで続くとしたら、21世紀は人類史上最悪の暗黒時代と呼ばれるだろう。

 

カダフィ大佐とアフリカの夢 : 資料編
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/cfc7efcc3d0937ee63fb60397aed23b4 

カダフィ大佐の最期とアフリカ支配

NATO軍による理不尽極まりない空爆からちょうど7ヶ月。
カダフィ大佐に最期が訪れた。
彼はできるだけ凄惨に殺害されなければならなかった。

国際社会が「独裁者」をどのように判定しているのかは知らない。しかしはっきり言えるのは、全国民に無料の高等教育を提供してきた人物を果たして独裁者と呼ぶべきなのか、ということだ。カダフィ政権は、最高の医療も無料で国民に提供してきた。河川が一本も存在しないリビアで、安全な飲料水を国民に供給するために、200億ドルもの予算を使って地下水を汲み上げるシステムを建設した(一部未着工)。公共のローンは無利息で提供されたし、輸入車に補助金を設けて、すべての世帯が車を所有できるようにもした。

独裁者というのは、国民の教育や医療、福祉予算を鷲づかみにしてポケットにねじ込み、タックスヘイブンに隠し持つような人物をいうのではないのか。

英国政府は、リビアで反乱が勃発するとすぐにカダフィ大佐らの個人資産200億ポンド(2.6兆円)を凍結したと発表した。しかし、次男のセイフ・イスラム氏は、我々家族はそのような海外資産など保有していないと一蹴した。アメリカ政府も2.4兆円の資産を凍結したと発表した。国民の資産を私物化する独裁者というイメージを世界に植えつけるためだ。

今後、イギリスやアメリカが合わせて5兆円にのぼる「凍結資産」をリビアに返還するかどうかモニターすべきだ。返還されなければ、そんな個人資産は最初から存在しなかったということになる。

カダフィ大佐にまつわる報道は見え透いたウソや作り話で塗り固められている。

テレビ映像では、大勢のリビア国民がカダフィ大佐殺害の報に歓喜の声を挙げている。しかし、自由意志で集まった人々だという保証はない。広場に集まらない者は敵とみなす、とアナウンスすれば、人々は一目散で広場に駆けつけるだろう。反乱軍は、民主主義や平和とは縁もゆかりもない武装集団にすぎないことを誰もが知っている。「カダフィ・ロイヤリスト」の疑いをかけられれば命はない。

外国メディアのインタビューに答えている人は、なぜか流暢な英語をしゃべっている。教育レベルの高いリビアにしても、群集にランダムにインタビューして、英語の質問に即座に英語で対応できる人に、そんなにうまく当たるものだろうか。現地語ではなく英語での受け答え、これもいつもの常套的パターンだ。

メディアの報道は、時と場所が違っても、いつもいつも判で押したように同じだ。「独裁」政権の崩壊に歓喜する群集と喜びの声。そんな映像にいったい何が代表されているというのか。しかし、世界の視聴者を欺くにはそれで十分なのだ。すでにパターン化されたものを踏襲することで、受け手は知的負担なくすべてを自然に受け入れる。

武装集団が実質的な権限を握るリビア新政府が、リビア国民の教育や医療、福祉に関心を持つとは誰も期待していない。新生リビアに待っているのは、終わりのない暗黒だということを誰もが理解している。

カダフィ政権の終焉は同時に、アフリカ大陸全体を暗雲に包むだろう。アフリカ連合が、リビア爆撃を止めようと努力したのは、これがリビア一国の問題ではないからだ。

2002年7月に設立されたアフリカ連合 (アフリカ統一機構を発展改組) は、アフリカの高度な政治的・経済的統合の実現をめざす機関だ。とりわけ重要な政策は、アフリカ中央銀行、アフリカ通貨基金、アフリカ投資銀行の設立を謳っていることだ。

その計画では、単一の中央銀行が発行する共通通貨が全アフリカで流通する。アフリカ通貨基金が通貨の安定を管理し、アフリカ投資銀行は無利息またはごく低金利のローンをアフリカ諸国に提供する。

これら三つの機関が意味するものは、アフリカ大陸の金融的独立だ。つまり、アフリカ大陸は、二度と欧米の資本を必要としないということだ。永遠に増え続ける債務地獄が終焉する。この三つの機関の運営を担保するのが、リビアの膨大な金保有(144トン)とオイルマネーだ。

アフリカの金融的独立は、欧米の金融機関からすれば、アフリカ大陸での莫大な利益と強大な権力の喪失を意味する。しかし、カダフィ大佐一人を地上から抹殺するだけで、そうした憂いを払拭できるとしたら、躊躇する理由があるだろうか。

武装集団が牛耳るリビア新政府が、統一アフリカや金融的独立に関心を持つかどうかは、考えるまでもない。

カダフィ大佐は、武装集団の手でできるだけ無残に殺害させる必要があった。
血にまみれる凄惨なカダフィ大佐の最期の姿は、全アフリカの指導者へのメッセージなのだ。

 

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